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しかし、流石に「絵が下手過ぎて伝わらない」と真っすぐ告げるのは、失礼極まりない。……しかも自分を守ってくれた人に対してなら、尚のこと。
(どうにか優しく……オンビンに……)
「え、えーっと……その、一個ずつ説明してくれると嬉しいなぁ……なんて」
「え? わからない?」
「わっ、わからないっていうか……ちょっと、難しすぎるかなぁって。ほ、ほら! 私が考えていることがマサキと違ってたら大変でしょう? だから、念のため言葉でも聞いておきたいなぁって」
(というか、説明されないと私何もわからないまま終わっちゃうんだけど)
だから、出来れば説明をして欲しいな、なんて思っていれば、マサキはじっと自分の書いた紙を見つめた。
「……まあ、確かにちょっとややこしいかもしれないな」
「で、でしょ?」
「俺はわかりやすいと思ったんだけど」
「あ、あははは……」
眉を寄せ、心底理解できないと言わんばかりに告げるマサキの視線を、ネザサは全力で素知らぬふりをした。わからないのも伝わらないのも、全部彼の絵のせいなのだが……なんだろうか、この罪悪感は。
マサキは「仕方ないな」とため息を吐くと、図をペン先で指し示した。どうやら説明してくれる気になったらしい。
「いいか、よく聞くんだ。――君の『華絵 彼岸花』は人のエネルギーを吸い取る力を持っている。これは知っているよな?」
「う、うん」
「最初はあの人の本の表紙になることでその力を分散できないかと考えていたんだけど、新作の絵の話があっただろ? そこで思ったんだよ。――『華絵 彼岸桜』を『華絵 彼岸花』の番にすればいいんじゃないかって」
「つ、番?」
「そうだ」
マサキの言葉に、ネザサは今度こそ真の意味で困惑した。
(つがい……番って、なに……?)
初めて聞く言葉はネザサにとっては理解の及ばないものだった。そんな彼女に、マサキは話を進める。
「番っていうのは、端的に言えば夫婦のことだな」
「ふう、ふ……」
「二つの絵の性質を近づけて、隣り合うようなものにするんだ。つまり『華絵 彼岸花』の力を『華絵 彼岸桜』で封じる……もしくは力を弱めるようにさせる」
「『華絵 彼岸花』を、封じる……」
「そうすれば、『華絵 彼岸花』は脅威ではなくなる」
ネザサは考えもしなかった提案に心底驚いた。
(そんなこと、出来るんだ……)
力を弱めるとか封じるとか、そういう発想自体、そもそもネザサの身近ではないのだから仕方がない。マサキはネザサの心を読んだかのようにこくりと頷くと、満足げにちうの頭を撫でた。
しかし、流石に「絵が下手過ぎて伝わらない」と真っすぐ告げるのは、失礼極まりない。……しかも自分を守ってくれた人に対してなら、尚のこと。
(どうにか優しく……オンビンに……)
「え、えーっと……その、一個ずつ説明してくれると嬉しいなぁ……なんて」
「え? わからない?」
「わっ、わからないっていうか……ちょっと、難しすぎるかなぁって。ほ、ほら! 私が考えていることがマサキと違ってたら大変でしょう? だから、念のため言葉でも聞いておきたいなぁって」
(というか、説明されないと私何もわからないまま終わっちゃうんだけど)
だから、出来れば説明をして欲しいな、なんて思っていれば、マサキはじっと自分の書いた紙を見つめた。
「……まあ、確かにちょっとややこしいかもしれないな」
「で、でしょ?」
「俺はわかりやすいと思ったんだけど」
「あ、あははは……」
眉を寄せ、心底理解できないと言わんばかりに告げるマサキの視線を、ネザサは全力で素知らぬふりをした。わからないのも伝わらないのも、全部彼の絵のせいなのだが……なんだろうか、この罪悪感は。
マサキは「仕方ないな」とため息を吐くと、図をペン先で指し示した。どうやら説明してくれる気になったらしい。
「いいか、よく聞くんだ。――君の『華絵 彼岸花』は人のエネルギーを吸い取る力を持っている。これは知っているよな?」
「う、うん」
「最初はあの人の本の表紙になることでその力を分散できないかと考えていたんだけど、新作の絵の話があっただろ? そこで思ったんだよ。――『華絵 彼岸桜』を『華絵 彼岸花』の番にすればいいんじゃないかって」
「つ、番?」
「そうだ」
マサキの言葉に、ネザサは今度こそ真の意味で困惑した。
(つがい……番って、なに……?)
初めて聞く言葉はネザサにとっては理解の及ばないものだった。そんな彼女に、マサキは話を進める。
「番っていうのは、端的に言えば夫婦のことだな」
「ふう、ふ……」
「二つの絵の性質を近づけて、隣り合うようなものにするんだ。つまり『華絵 彼岸花』の力を『華絵 彼岸桜』で封じる……もしくは力を弱めるようにさせる」
「『華絵 彼岸花』を、封じる……」
「そうすれば、『華絵 彼岸花』は脅威ではなくなる」
ネザサは考えもしなかった提案に心底驚いた。
(そんなこと、出来るんだ……)
力を弱めるとか封じるとか、そういう発想自体、そもそもネザサの身近ではないのだから仕方がない。マサキはネザサの心を読んだかのようにこくりと頷くと、満足げにちうの頭を撫でた。