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「! 君には見えたのか……!」

「ちょっとだけですけどね」

そう言う妻に、僕は目を見開く。「こりゃあ驚いた」と呟けば、妻は得意げに笑った。

(まさか妻にそんな力があったなんて!)

驚いていられるのも束の間。街に夕刻を報せる音が響くのを聞いて、僕たちは宿へと走り出した。急いで荷物をまとめると、宿をチェックアウトし、新幹線のある駅へと向かう。

事前に買っていた乗車チケットを駅員に見せ、妻と二人、新幹線の席に腰を下ろした。程なくして新幹線が発車する。どうやら時間ギリギリだったらしい。

ふう、と息を吐いて、妻と視線を合わせる。どちらともなく笑みを浮かべ、どっと疲れた体を背もたれに重く預けた。

「それにしても、忙しない旅行でしたね」

「そうだね。まさか旅行先でお葬式に出ることになるとは。準備はしていたつもりだったが、予想外だったよ」

「私も驚きました」

妻の言葉に、僕も笑みを浮かべる。それを皮切りに、お互いに見たここ数日の思い出を吐露した。

旅館の食事が美味しかったとか、老舗の和菓子が美味しかったとか、今では葉になってしまった桜の木も美しかったとか。

「願わくば、表紙の約束を確実なものにしたかったとは思うけれどね。流石にあの状況ではどうしようもない」

「仕方ないですよ。いろいろありましたから」

「そうだな。本当に、いろいろ……あったな……」

「ええ」

僕の背中を擦ってくれる妻の温かい手に、微睡む瞼をゆっくりと下ろしていく。

沢山の事があったが、それと同時に刺激を受けたのも事実だ。予想外に楽しかった日々に、僕は疲れ切った意識を沈めていく。妻の頭が肩に乗せられたのを感じつつ、僕は心を満たす充足感に満足げに笑みを浮かべた。

家へ帰る二時間程度の短い旅は、どうやら夢の中で過ごすことになりそうだ。



 ――時は遡り、夫婦が去ったのを見送ったネザサは、目の前で未だ考え事に耽る少年を見つめた。

お茶も既に飲み切ってしまったし、茶菓子も食べてお腹いっぱいになってしまった。それでも止まないらしい思考の渦に、ネザサは時計を見る。

「ねえ、マサキ。まだ終わらない? 私そろそろ帰りたいんだけど」

「ハッ!」

肩を強く揺らし、声をかける。途端、マサキが意識を取り戻したかのような声を上げた。

(びっくりした……!)

ビクッと跳ね上げた肩と心臓を撫でつつ、ネザサはマサキを伺う。

きょろきょろと周囲を見回しているところを見るに、随分と時間が経っていることに驚いているらしい。