06

今はマサキの思いから式神となってしまったものの、その愛らしさは変わらない。マサキは満足そうに笑うと、指先でちうの頭を撫でた。

「それにしても、画家さんねぇ……」

「ちう?」

「なあに、別に嫌なわけじゃないさ。ただ俺はこういうことには明るくない。情報が少ないのは依頼を達成するのに、多少なりとも影響してくるだろう」

「ちうちう!」

「そうだな! まずは敵を知るところから始めねーとな!」

「ちーう!」

「え、なに? 敵じゃない? そーんなのわかってるって!」

マサキは上機嫌に笑うと、会長から手渡された紙を見つめた。会長の友人はどうやら“妹尾”というらしい。男なのか女なのか、この時点では把握すらできないが、とにもかくにも家に帰ったら早速彼に電話をしてみよう。

(可能であればその絵画を見られりゃあ、儲けモンだな)

そんな目論見も、マサキにはあった。

金持ちがこぞって手にしたがる絵画が、一体どんなものなのか。普通の人間であれば、多少の興味は沸くというもの。マサキもその一人だった。あわよくば、一人でも今後の客として繋がりを持っておきたいし。



しかし、マサキの思惑とは大きく外れ、絵画に会うことはおろか、会長の友人に会うことすら叶わなかった。理由は一つ。『華絵 彼岸花』を描いた張本人であるnezasaが「彼岸桜が咲くまで待って欲しい」と懇願したからだ。

どうやら『華絵 彼岸花』を手にせんと沢山の人間が妹尾の家に押しかけたのだそうだ。その勢いに妹尾は少々危機感を覚え、何かあっては危ないからと、絵画を描いたnezasaに頼み込んで本人の家に秘密裏に移動させたらしい。

(そうならそうとさっさと言ってくれりゃあよかったのに)

こんなことなら妹尾に連絡する前に、nezasa本人のアトリエに足を運んだというのに。

しかし、この状況ではどうせアトリエに行っても意味はなかっただろう、とマサキは思う。そりゃあそうだろう。誰が何を狙っているのかわからない状況で、初めて会う人間を自身のテリトリーに入れる人間がいるか。否、いるわけがない。

「お手上げだな」

「ちうー?」

マサキは落胆に肩を落とした。前金を渡されたものの、これ以上の稼ぎは出来ないかもしれない。

(パンの耳生活は嫌だなあ)

数か月前に経験したばかりの地獄を思い出しながら、マサキは日々のルーティンを熟そうとちうを左肩に乗せ、家を出た。