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そう告げれば、妻は渋々といった様子で静かに話し始めた。しかし、時間が経つ事に彼女の顔は明るくなっていき、僕はほっと胸を撫で下ろす。

(よかった。機嫌は直ったみたいだ)

妻との静かな朝を迎えた僕は、朝食を食べた後、早速マサキくんへと電話を掛けることにした。

直ぐに電話に出た彼に絵を引き取りたい旨を話せば、嬉々として声を上げた。

「午後には告別式が終わりますので、その時に改めて」

「ああ、わかったよ」

マサキくんとの通話を終え、僕は妻を振り返った。笑みを浮かべる彼女に手を差し伸べる。

「夕方まで、観光の続きでもしようか」

時間はまだ午前中。新幹線が出るのは今日の夜。――無駄にしている時間は、ない。





僕は妻とたらふく店の物を食べ歩き、土産を山のように買った僕は宿にそれらを置くと、一人自治会の事務所へと向かった。本来であれば僕も告別式に出るべきだったのだろうが、服は処分してしまったし、出るに出られないのが現状だった。

僕が妻と一緒に自治会の事務所に着くと、中にはマサキくんとnezasa本人が待っていた。

「こんばんは。お待たせしてしまったかな?」

「いえいえ。僕たちもさっき帰って来たばかりですよ。な、ネザサ」

「う、うん」

こくりと頷く彼女とマサキくんに、僕は軽く笑みを返すと二人の正面の席へと腰かけた。

まるで校長室のような座り心地のいいソファに少し驚きながら、僕は二人を見つめる。

「式に行けなくてごめんね。……大丈夫だったかい?」

「もちろん。この天才陰陽師マサキが居れば、心配なんて無用ですよ!」

「ははは。それは頼もしい」

マサキくんの言葉に軽く笑い声をあげて、僕たちはネザサから差し出されるお茶を受け取る。

彼の話曰く、老人たちは昨日の事でマサキくんを不気味に思ったのか、ほとんど近づいては来なかったらしい。それに加え、参加者の大半が箕輪に恩を感じているようで、そういったいざこざが起きるほどの活気はなかったのだとか。

「お義父さんは本当にお人好しで……」

「確かに! 余所者の僕にも定期的に仕事を回してくれたしなぁ。会長、顔だけは広かったから助かったぜ」

「ふふっ。『手のかかる息子がいる』っていつも言ってたよ」

マサキくんの言葉に、彼女は上機嫌に笑う。……昨日、あれだけ泣いたからか、彼女自身は少し吹っ切れた様子だ。そんな幼い二人を見て、僕は内心胸を撫で下ろしていた。

少しの間、花を咲かせる二人の話を聞いていれば、マサキくんがお茶を啜って僕を見た。