49

彼は僕にとってはもう、単なる子供じゃあない。――取引相手だ。

「それで、お願いっていうのは?」

「最近、新しい作品を書いているそうですね。その表紙に使う絵を探しに、ここまで来たと」

「そこまでお見通しなのか」

「ええまあ。助手が優秀ですから」

「ははっ、これは驚いた」

僕は出来るだけ気楽に振舞う。

取引に置いて、小さな隙は大きなミスに繋がりかねない。妻が心配そうに僕を見ているが、僕は笑みを向けるだけで何かを応えることはしなかった。



「しかし、こうも事件が相次いでいては、僕の方でも使うのは難しいかもしれないよ?」

「そうですか。それは残念です。今なら大金も払わず『華絵 彼岸花』を手に入れられるかもしれないというのに」

「……ほう」

僕はマサキくんの言葉に僕は眉を寄せる。

正直、金のない自分たちにとっては、それはもう願ってもいない状況だった。

「どうしてそんなことが君にわかるんだい?」

「おや、興味が沸きましたか?」

「……多少だけどね。話を聞こうかなと思うくらいには興味があるよ」

「そうですか。それは良かったです」

ふふふ、と顔を見合わせて笑みを浮かべる。食えないマサキくんの表情に、僕は内心つい感心してしまった。

(まるでちゅう秋と話しているみたいだ)

きっといろいろなことを経験してきたのだろう。陰陽師だというし、もしかしたら自分よりも口は達者なのかもしれない。日中も、『詐欺師だ!』なんてひどいことを言われていても、落ち着いた様子で話をしていたし。

マサキくんはぴぃと指笛を吹いた。ちうとガーがバサバサと羽根を羽ばたかせると、二羽はどこかへと飛んでいく。まるで番のようだ。

「少し待ってくださいね」

「え、ああ」

うん、と頷いて、僕は瞬きをする。一分が経ち、二分が経ち……僕は妻と首を傾げる。

(何も起こらない)

何かを待っているのだろうか。「飲み物買ってきますね」というマサキくんを見送った僕は、妻と一緒にとりあえず待つことにした。マサキくんが帰って来て、更に時間は過ぎる。初めに待てと言われてから、もう数十分が経過していた。

「……ええっと、マサキくん」

「しっ。……来ました」

「え?」

しびれを切らせた僕の言葉を遮り告げたマサキくんに、僕は声を上げる。――来た、とは。



「はあっ、はあっ……! お、お待たせしました……!」

「――!!?」

「いやいや。急に呼び出したのはこっちだから。気にしないで」

僕は走って来た人物に声を上げる。