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「それで、僕にその話をした理由は?」

「お話が早くて助かります」

ふふっと未だに笑いを噛み殺しながら言う彼に、僕は心を落ち着けながら話の続きを待つ。

彼は口元を覆っていた手を自身の膝の上で組むと、ゆっくりと話し始めた。

「僕との契約は箕輪会長が全て請け負っていました。……彼が死んだ以上、僕の依頼は完了という形になります」

「確かに、依頼主が死んでしまっては、どうしようもないね。お金も困ってしまうだろう」

「はい。ですが、未だ『華絵 彼岸花』は活動し続けている。しかもその絵があるのは箕輪会長の友人で、ネザサ本人が引き取られた妹尾さんのところ。……また同じことが起きてもおかしくないんです」

マサキくんが静かに俯く。彼の言いたいことが分かったような気がした。

(彼女が心配なんだな)

もちろん、会長に情がなかったわけではないだろう。それでも、歳というものは偉大で、自分と近い歳の子への感情の膨らみ方は驚くほど大きく、早い。マサキくんも、そうなのだろう。

「絵を燃やすのはダメなのかい?」

「それは……ネザサが悲しんでしまう、と思います。それに、箕輪会長はそれを望みませんでした。たったの、一度も」

「同情で引き取った子供の、ただの絵なのに」というマサキくんは、苦く笑う。その顔は嬉しそうで、悲しそうで。

(……まるで家族みたいだな)

家族のものとなれば、そりゃあ他人から見ればただのゴミも宝物になるだろう。……ネザサという少女は、どうやら彼等にとても愛されているらしい。

(しかし、絵画を燃やさず、周りの顰蹙も買わず、誰かを見殺しにすることもなく穏便に……か……)

「……流石に難しい気がするのは僕だけだろうか」

「俺も思います」

僕の言葉に、彼は頷く。迷いのない同意に、僕は少し笑ってしまった。

「そこで、貴方にお願いがあるんです」

「お願い?」

「はい。東京で作家をやっているあなたにしか、頼めない事なんです」

彼の言葉に、僕は驚いた。出会った誰にも自分が作家であることは言っていないし、それを示唆するようなことも口にしていないはず。それなのに彼は僕のことを知っていた。しかも場所まで当ててみせて。

「……どうして僕が作家をしていると?」

「そんなの簡単ですよ」

ふとマサキくんが頭上で戯れる二羽の鳥を見つめる。――ああ、なるほど。彼等か。

(流石、天才陰陽師)

素直に尊敬してしまう。ちゅう秋とどっちがすごいんだろうと思いながら、マサキくんを見る。