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(保護対象だって言うから、ずっと一緒にいないといけないのかと思っていたけど、そうじゃないのか?)

ちゅう秋といい、マサキくんといい、出来ることの差がわからない。というか、普通ならできないことをさらっとやってのけるから、僕は毎回驚いてしまう。

「えっと、その……離れていて大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫ですよ。彼女にはお札を渡してありますので」

「おふだ?」

「僕の分身みたいなものです」

にこっと笑うマサキくんは「これ以上は企業秘密です」と呟いた。……これ以上は踏み込んではいけなさそうだ。

「ああそうだ。そんなことより、貴方に話しておきたいことがあるんです」

「話しておきたいこと?」

「はい。まあ……ここ最近、ずっと考えていたんですけど。僕の〝本当の依頼〟について、あなたに知ってもらえていると心強いなと思っていまして」

「本当の依頼?」

頷くマサキくん。その目は何か大きなことを決意した色をしており、僕は目を瞬かせる。彼は静かに近くのベンチに座ると、僕たちを手招いた。僕は妻と顔を合わせると、彼の隣に腰を下ろした。

夜風が頬を撫でる。それを気持ちよさそうに受け止めながら、マサキくんは依頼と『華絵 彼岸花』について話してくれた。



「最初に受けた依頼内容は、『華絵 彼岸花』の実態についてでした」

「実態?」

「はい。僕が依頼を受けた時点で、既に五人の持ち主が謎の死を遂げていた……いえ、謎の死、というよりは人間としての寿命を迎えていたんです」

「どの方も余命宣告を受けていたり、重い病を患っていたり、かなり歳を召していた方ばかりでしたから」と続けるマサキくんに、僕は何も言わずただ話を聞いていた。……きっと『華絵 彼岸花』の事を一番知っているのは、彼なのだろう。

「『華絵 彼岸花』の周りで起きる事件は、何時だって強い気持ちの前にありました。「病を治したい」「長く生きたい」「会えない人に会いたい」……。つまり、あの絵は持ち主の強い気持ちを吸って存在しているんです」

「え、ええっと?」

(絵が、気持ちを吸う?)

一体どういうことだと首を傾げるが、マサキくんは淡々と話を続ける。

「僕はそれを会長に話しました。そして、更に依頼を受けたんです。それが――『華絵 彼岸花』を描いた本人、nezasaの護衛でした」

彼の言葉に、僕は目を見開く。

「みんなは町の人間全員を俺が守るみたいに認識していますが、実のところ守っていたのはネザサだけで、彼等はただ運が良かっただけなんです」