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こんな時間にもしているのかと思っていれば、「今日は朝から準備で大変だったので」とマサキくんが答える。……心でも見透かしているんだろうか。

マサキくんの返答に笑みを返しつつ、ふと日中の事を思い出す。肩の荷が下りたことに安堵していたが、あの時は彼にも迷惑をかけてしまったんだった。

「昼間は本当に失礼したね。手伝ってくれたんだって? ありがとう」

「いやいや。仕方ないですよ」

「そういうわけにはいかないさ! 今度何かお礼をしなくちゃね」

「えっ! いいんですか?!」

「もちろん」

目を輝かせるマサキくんに、僕はしっかりと頷く。男に二言はないさ。

「あ、でも高価なものはやめてくれよ?」

「えっ。家はダメですか?」

「明日から路頭に迷う僕たちを見たいなら」

「冗談ですよ」

「それは良かった」

ふはっと吹き出して笑うマサキくんに、僕も笑みを返す。本当に、冗談でよかった。

僕はふと目の前を掠めた白い光に目を向ける。それはマサキくんの頭上でくるくると楽しそうに飛び回っていた。

「そういえば、あの鳥のようなものって……何だい?」

「式神ですよ。僕の」

「なるほど」

「……驚かないんですね?」

「ああ、うん。僕の親友も、似たような職をしているからね」

マサキくんの言葉に、僕はちゅう秋を思い出す。彼も式神やら人形やら、いつも変な物を持っているからすっかり慣れてしまった。

(普通は驚くものなんだな)

僕はそう思いながら飛び交う鳥を見つめていれば、マサキくんの視線が突き刺さってきていることに気づいた。視線を向ければ、マサキくんが真っすぐ見つめ返してくる。

「えーっと、何か?」

「……見えてるんですか?」

「この子たちの事?」

「はい」

マサキくんの声に、僕は瞬きをする。うーんと唸りながら、顎に手を当てた。

「色は白で、輪郭もぼやけているから種類とかはわからないんだけど……鳥かなってくらいはわかるかな。……烏のアルビノ、とかじゃあないよね?」

「ふふふっ。ええ、違います」

くすくすと笑いながら頷くマサキくんに、僕は「そうだよね」と返す。マサキくんは自分の方に下りてくる鳥を受け止めると、指で鳥の頭らしき場所を撫でた。

そして何かを呟くと、自身のポケットを漁り、一枚の紙を取り出した。

「それは?」

「式神の媒体です。これにこうして……」

マサキくんは自分の指の皮膚を噛み切ると、滲む血をその紙に押し付けた。

――途端、紙だったものは体を持ち、意志を持ち、飛び立つ。