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そんな彼を見ていた会長は、わざとらしく咳をするとマサキに封筒を手渡した。

封筒を受け取り、中を見る。マサキはその中身を見て、その目を輝かせた。

「前金はこれくらいで。受けてくれるだろう?」

「そりゃあもちろん! この天才陰陽師にまっかせてくださーい!」

「……不安になってくるからその自己紹介やめてくれ」

「なんでですか!」

「馬鹿に見える」

「そこまで言いますぅ!?」

マサキの声に会長は嘲るように笑うと、話は終わったとばかりに友人の連絡先と画家のnezasaのアトリエの住所が書かれた紙を手渡した。雑に書かれた文字は読みにくいが、ないよりはマシな情報にマサキは慌てて紙を握り占める。もしこの依頼がなくなってしまったら、明日の飯さえも危うくなってしまう。

「金持ちたちの戯言には気を付けろよ。あの手この手で俺たちからあの絵画を奪おうと画策しているからな」

「へぇ。なんか会長に言われるなんて、その人達は随分と手癖が悪いみたいだな」

「ちゃっちゃるん!」

「お前が知り合いの陰陽師じゃなきゃあ、今頃全身ふんじばって川にでも流せるんだが」

「すみませんって」

会長との駆け引きにマサキは素直に謝罪を口にすると、ちうと共に自治会の拠点となっている場所を追い出された。

「何も投げ出すことはないだろう。なあ、ちう」

「ちう~!」

日が落ちて寒くなっている外に放り投げられた彼は相棒とそう顔を見合わせると、ぐうっと腹の虫が鳴ったことに気が付いた。

仕方ない。今日はこの辺にして、夕食にでもしようじゃないか。

マサキはそう考えると自身の家に戻ろうとして、踵を返した。冷蔵庫の中身が空っぽだったのを思い出したのだ。彼は少し考えると、ちうを肩に乗せたまま知り合いのいる繁華街へと足を向ける。

冷蔵庫を満たすための食材を買うのは後にするとして、まずは残り物の飯でもわけてもらおう。マサキはよく注文を間違えることで有名なラーメン屋へと向かうと、ラーメンの汁の残りで作った炒め飯を掻き込んだ。

「はー、よく食った。なぁ~、ちう」

「ちゃっちゃるん!」

「ははは! お前も腹いっぱいか!」

「そりゃあいい!」とけらけらと笑うマサキに、ちうが体を揺らす。

ラーメン屋で十分に腹を膨らませた一人と一匹は、上機嫌に暗くなった街を歩き出す。春になるとはいえ、夜はまだまだ冷え込む。くしゃみをする前にと、マサキは薄いトレンチコートのポケットに手を突っ込んで肩を竦ませる。