36
「――あれ。貴方まだこんなところにいたんですか?」
「!」
背後からの声に、僕はビクリと肩を震わせる。再度振り返れば、そこには今度こそ人の姿があった。
「ま、マサキくん。どうしてここに……」
「主催の箕尾会長の奥さんを呼びに来たんですよ。何でも会場の人が話があるからって」
「ほら、奥さん、呪われたくないってネザサに近づかないようにしているでしょう?」と言って笑うマサキに、僕の背中を冷や汗が伝う。……確かに箕面さんの奥さんはこの先の部屋にいるが、あの喧騒の中の一人だ。未だ怒鳴り声が響く部屋に視線を向ければ、マサキくんは苦く笑う。
「全く。またやってるんですか~?」
「え。またって……もしかしてこういうことよくあるの?」
「ええ、まあ」
こくりと頷くマサキくんは、もう慣れたと言わんばかりに襖に手を掛けた。その手を僕は慌てて止める。
「ちょ、ちょっと待って!」
「え? どうしてです?」
「……今はその……やめた方がいいかなって思うんだ。もう少しほとぼりが冷めてからでも」
「? ああ、もしかして僕のことで争ってます?」
「えっ」
「いやぁ、僕ってば人気者で」
「まあ、天才陰陽師ですから仕方ないんですけどね!」と笑うマサキくん。その顔は綺麗なほどの笑顔なのに、目は諦観に染まっており、まるで何を言われるのかわかっているかのような表情だった。――少なくとも、子供のする表情ではなくて。
(彼等は、今までマサキくんにどんな言葉を投げてきたんだ)
一回や二回ではこんな顔をさせることはないだろう。ならば一体どれだけの暴言を彼に浴びせてきたのか。僕は考えるだけで胸糞が悪くなって拳を握りしめた。
「というわけで」
「え」
――しかし、それはマサキくん自身に吹き飛ばされた。それはもう、豪快に。
スパーンッ。
「どうもー! 天才陰陽師のマサキでっす! ご歓談中のところ申し訳ないんですけど、箕輪さんの奥さんいらっしゃいますか?」
「ちょっと!?」
(嘘だろう!?)
綺麗な音を立てて開かれた襖。見開かれた数々の目が部屋の中から突き刺さる。信じられない、と言わんばかりの視線に、僕も内心大いに同意した。
「ま、マサキくん」
「なんか会場の方が奥さんにご相談があるそうで。お手数ですが足を運んでいただいても?」
「あ、ああ。わかったわ」
顔を真っ青にした奥さんはぎこちなく頷くと共に、そそくさと部屋を後にした。
「――あれ。貴方まだこんなところにいたんですか?」
「!」
背後からの声に、僕はビクリと肩を震わせる。再度振り返れば、そこには今度こそ人の姿があった。
「ま、マサキくん。どうしてここに……」
「主催の箕尾会長の奥さんを呼びに来たんですよ。何でも会場の人が話があるからって」
「ほら、奥さん、呪われたくないってネザサに近づかないようにしているでしょう?」と言って笑うマサキに、僕の背中を冷や汗が伝う。……確かに箕面さんの奥さんはこの先の部屋にいるが、あの喧騒の中の一人だ。未だ怒鳴り声が響く部屋に視線を向ければ、マサキくんは苦く笑う。
「全く。またやってるんですか~?」
「え。またって……もしかしてこういうことよくあるの?」
「ええ、まあ」
こくりと頷くマサキくんは、もう慣れたと言わんばかりに襖に手を掛けた。その手を僕は慌てて止める。
「ちょ、ちょっと待って!」
「え? どうしてです?」
「……今はその……やめた方がいいかなって思うんだ。もう少しほとぼりが冷めてからでも」
「? ああ、もしかして僕のことで争ってます?」
「えっ」
「いやぁ、僕ってば人気者で」
「まあ、天才陰陽師ですから仕方ないんですけどね!」と笑うマサキくん。その顔は綺麗なほどの笑顔なのに、目は諦観に染まっており、まるで何を言われるのかわかっているかのような表情だった。――少なくとも、子供のする表情ではなくて。
(彼等は、今までマサキくんにどんな言葉を投げてきたんだ)
一回や二回ではこんな顔をさせることはないだろう。ならば一体どれだけの暴言を彼に浴びせてきたのか。僕は考えるだけで胸糞が悪くなって拳を握りしめた。
「というわけで」
「え」
――しかし、それはマサキくん自身に吹き飛ばされた。それはもう、豪快に。
スパーンッ。
「どうもー! 天才陰陽師のマサキでっす! ご歓談中のところ申し訳ないんですけど、箕輪さんの奥さんいらっしゃいますか?」
「ちょっと!?」
(嘘だろう!?)
綺麗な音を立てて開かれた襖。見開かれた数々の目が部屋の中から突き刺さる。信じられない、と言わんばかりの視線に、僕も内心大いに同意した。
「ま、マサキくん」
「なんか会場の方が奥さんにご相談があるそうで。お手数ですが足を運んでいただいても?」
「あ、ああ。わかったわ」
顔を真っ青にした奥さんはぎこちなく頷くと共に、そそくさと部屋を後にした。