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具体的な歳はわからないが、それでも二人がまだ十代であることは確かだ。そんな彼等に、年相応の行動を垣間見ることが出来て、僕は少しだけ気持ちが落ち着いていくのを感じる。

(そうか。二人ともまだまだ子供なんだもんな)

生意気なことだって言うし、自分の作品を恥ずかしくて隠してしまうこともあるだろう。思春期とはそういうものだ。

自分まで若くなったような気を起こしながら他愛もない話をしていれば、ゴーンゴーンとどこからか鐘の音が聞こえてくる。顔を上げれば「近くのお寺の鐘の音ですよ」とnezasaが言う。次いで時計を見たマサキが、声を上げた。

「それにしても、会長さん遅くないか?」

「え?」

「あれからもう三十分以上経ってますよ」

「ほら」と言われ、僕も目を向ける。確かに、彼の言う通りお茶を入れに行っただけでは遅い気がする。

「僕が見て来ようか」

「あ、わ、私が行きます……っ」

腰を上げようとした僕を制し、彼女が立ち上がった。

部屋を飛び出し、廊下を走る音が遠ざかる。そんなに走ったら会長に怒られてしまうだろうにと思っていれば、遠ざかった足音が激しさを増して帰って来た。

勢いよく開けられた襖の先。息を切らしたnezasaと目が合う。

「た、助けて! お、お義父さんが倒れてるのッ!!」

「「!」」

僕たちは走り出した。

彼女の案内で向かった先には倒れた会長と、転がる湯呑。そして、慌てて用意してくれたのだろう。近くの饅頭屋の饅頭が転がっていた。

「マサキ君! 救急車を!」

「わかってる!」

走り出すマサキを横目に、僕は会長の元へと駆け寄る。息をしていないことに気が付いて心臓マッサージを施していれば、存外早くサイレンが鳴り響く。

状況説明をしつつ、救急隊に会長をお任せした僕はnezasaとマサキと共に一緒に救急車に乗り込んだ。――しかし、会長の体調は回復することなく、自治会の会長はその日を境に息を引き取った。

死因は原因不明だという。

泣き崩れるnezasaに、僕は当たり障りない言葉を掛ける事しかできなかった。

後日聞いた話では、会長の車には『華絵 彼岸花』が乗っていたという。どうやら元の場所に戻すため、運ぶ準備をしていたのだとか。人は『華絵 彼岸花』を手放そうとした祟りなのではないかと噂し、噂を本気にした会長の奥様は「自分まで呪われてたまるか!」とnezasaを手放したらしい。

そんな彼女を引き取ったのは、会長の友人と名乗る“妹尾”という男だったという。会長とはかなり仲のいい間柄だったようで、悲しみに暮れていた彼は、nezasaを彼の形見だといい「誰にも渡さない!」と泣き叫んだらしい。それをマサキ伝いに聞いた僕は、とりあえずひどい扱いはされなさそうで安堵に息を吐いた。