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翌日。僕がマサキに電話をすると、彼には自治会へ来るようにと言われた。

勝手に入ってもいいのかと問いかければ、自治会の会長へは話を通しておくとのこと。依頼をされたと言っていたから、面識はあるのだろう。

(そういえば、大変なことになっていると言っておきながら、随分と簡単に依頼の内容を話してくれたような気がするな……)

もしかしたらあの時既に、マサキは僕の嘘と正体に気が付いていたのかもしれない。

(天才は名ばかりじゃない、ってか)

とにもかくにも、彼については注意しておこうと心に決め、僕は自治会の場所を問いかけた。



自治会は昨日二人と遭遇した場所から、少し離れた場所にあった。

田舎特有の横に長い家を見上げ、僕は門を叩く。妻はこっちにいる友人と会う約束があるとかで、今日は別行動である。

「すみませーん。マサキ君に紹介されてきたものなんですけど」

声を張り上げるが、誰も出てくる様子はない。うんともすんとも言わない家に「留守なのか?」と首を傾げていれば、自分が来た道と同じ方向から来たマサキと目が合う。

「あ、どうも!」

「ど、どうも」

「もしかして今声かけました?」

マサキが自治会を指差し、問いかけてくる。それに僕は深く頷いた。

「ああ、はい。でも留守みたいで……」

「えー? そんなことなかったけどなぁ」

そう言うと、マサキは僕の立っていた場所に割り込むと、ガンガンと扉を叩きだした。

「ちょ、ちょっとマサキく、」

「おーい、会長さーん! 天才陰陽師マサキ、参上しましたよ~!」

ガンガン。ガンガン。

自分が叩いたノックの十倍荒い手つきに、僕は顔面が引き攣るのを感じる。

(流石にそれは怒られるんじゃあ……!)

「ゴラァ!! マサキィ! 何をしている! 近所迷惑だろうが!!」

「ひッ!?」

「会長の耳が遠いんだってー!」

「笑いながら言うんじゃない!」

けらけらと笑うマサキに、自治会の会長が声を荒げる。その姿はまるで祖父と孫のやり取りを見ているような気持ちだった。

二人の勢いに唖然としていれば、二対の視線が僕に向けられ、はっとする。

「おお、君がマサキの言っていた記者さんか。これはたまげた。わざわざこんなところまで来てくださるなんてなあ!」

「ははは。こちらこそ、この度は取材をお受けしてくださってありがとうございます」

「いやいや! こっちとしてもあの絵が有名になれば、あんた達みたいなのが増えて経済が潤うってもんですよ!」