03

「ちっうちう~ちゃっちゃるーん」

「ゴキゲンだなぁ、お前」

「ちうちうっ!」

上機嫌に歌うちうに、マサキは苦く笑い“自治会”と書かれた木札の戸を叩いた。

「おーい、会長さんやーい。来てやったぞぉ~」

どんどんと戸を強く叩けば、どたどたと騒がしい足音が聞こえてくる。マサキはそれに気づきながらも、戸を叩く手をやめない。それどころか、リズムを刻むように戸を叩く。

「かいっちょーさんっ、天才陰陽師のマサキ様がやってきたぞー!」

「ああもう、うるさいうるさい! うるさいぞ、マサキ!」

「おおう、会長さんじゃないですかぁ! お迎えどーも!」

「はあ……お前のための迎えじゃない。近所迷惑だろうが」

「いーじゃないですかぁ!」

はっはっはと高く笑ったマサキを、会長は鬼のような形相で睨みつけている。

マサキの肩には彼の式神である九官鳥のちうが、彼の作った曲を上機嫌に歌いながら体を揺らしている。その様子を見て、会長は片眉を上げて苛立ったように口元を引き攣らせた。

「お前たちは……ったく。とんでもなく腹立つ顔並べよってからに」

「はあ? 何を言っているんですか?」

「ちう?」

「くっ……! 生意気な餓鬼を二人相手している気分になるな」

会長は頭を抱えると、マサキを自治会の中へと招き入れた。会長は畳の上に雑に座布団を放ると上座に座る。マサキは投げられた座布団にドンと腰を下ろした。

近くに置いてあるポットで勝手に茶を入れては、湯呑に注いだ。ズズズと下品にもお茶を啜れば、会長は呆れた顔をする。

「ったく。早速だが、話をさせてもらうぞ」

「おおう。なんだなんだ? 浮気してたのがバレたのか?」

「そんなもんしとらんわい。……いや、浮気と言えば浮気か?」

「おお? 本当か。どんな別嬪さんなんだ?」

「さあ。知らないな」

茶を自身の湯呑に入れ、会長は中身を啜る。薄いだのなんだのと騒いでいるがマサキは気にしていない。

「どういうことだ?」

「私が入れ込んでいるのは、ただの女ではない。――画家、“nezasa”という女性だ」

会長の言葉に、マサキは驚く。

「画家ぁ?」

「ああ、そうだ。彼女はかなりいい腕を持っている画家なんだが、なにぶん目を引くものでな」

「はぁ」

「私の友人が彼女の名画『華絵 彼岸花』を持っているのだが、売って欲しいだの譲ってくれだの人が引っ切り無しに押し寄せてくるんだ」

「はぁ」

マサキは気のない返事を繰り返す。的を得ない会長との会話に、マサキは早々に興味を失い始めている。