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たこ焼きを二つ手にしたマサキくんは、ネザサにひとつを渡すと不貞腐れた顔でたこ焼きを頬張る。その姿を苦笑いをして見ていれば、じぃっと二人を見つめる視線に気がつく。視線の元は妻だった。

(……食べたいのか?)

じいっと二人を見つめる妻。その視線の意味を測ろうとして……僕は首を振る。どうせ考えたところで分からないのだ。ならばせっかく祭りに来たのだから、楽しんだ方がいい。

僕はさっきマサキくんが立ち寄ったたこ焼き屋に寄ると、二つ購入した。熱い船を両手に戻ると、ひとつを妻へと差し出す。

「えっ」

「要らなかったかい?」

驚く妻にそう問いかければ、差し出される手。小さく「……要ります」と呟かれた声に、僕は口元を引き上げた。

(いつもなら欲しいものはハッキリと言うのに)

子供たちの前だからと遠慮をしているのだろうか。

そりゃあ、二人は花より団子といった状態で露店しか見ていないし、いくつか案内してくれるお礼にと買ってあげたものだってある。だからといって、彼女自身が我慢する必要はないというのに。健気で、可愛い奥さんである。

「あ、ありがとう、ございます……」

「僕も食べたかったからね。ついでだよ」

「ふふっ。そうなんですね」

「なんとお優しい」と茶化すように言い、くすくすと笑う妻に僕は咄嗟に顔を隠してしまった。まさか全てバレていたとは。何とも格好つかない自分に苦虫を噛み潰したような気持ちを抱えながら、僕はマサキくん達の背中を追いかけた。

散々露店を冷やかしたあとは、本来の目的である桜を見上げる。ちょうど休憩用のベンチが空いていて良かった。

「随分歩きましたね」

「そうだね。さすがに疲れたなぁ」

「私も。足が痛くなってきました」

そう言いつつも、ふふふ、と楽しそうに笑う妻に、僕も笑みがこぼれる。どうやら妻も存分に楽しんでくれたらしい。

「それにしても、彼はとても人気な子なのですね」

「本当に。歩けば歩いただけ声をかけられたからなぁ。まるで真夏のビーチを歩く美女の気分だったよ」

そのほとんどが準備を断った時の恨みつらみだったけれど。

知り合いらしき人に絡まれているマサキくんを見ながら、僕は声をかけてきた人たちを思い浮かべる。商店のおじさんやおばさん、通りすがりの犬の散歩をしていた夫婦、喧嘩中のカップルらしき男女、自転車で走り回る若者、お母さんに泣いて強請る子供。……他愛もない話から、喧嘩の仲裁まで。