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そんな桜を人々が見上げ、楽しそうに歩いていく。傍らには露店が出ており、どの店も繁盛しているのかお客さんが立ち寄っている。真ん中を走る道路は常は車道なのだろうか。灰色のコンクリートが今は桃色の絨毯で埋まっている。

「あれ? でもこの前、マサキに桜の木の掃除を頼んだら逃げられたってお義父さんが言ってたよ?」

「それはそれ! これはこれだ!」

「えぇー?」

マサキくんの言葉に、少女──ネザサが不服そうに声を上げる。話を聞くに、どうやら彼女の父がマサキくんと繋がりがあるらしい。

(逃げたって……大丈夫なのだろうか)

怒られはしないのだろうか、と思っていれば、ネザサが「また怒られるよ」と告げる。その言葉に頷きかけ、マサキくんが「慣れているから問題なし!」と声を上げた。……彼はどうやら常習犯のようだ。

「ともかく、まずは出店ですね! さあさあ! 早く行きましょう!」

「あ、ちょっと……!」

マサキくんに腕を取られ、走り出す。引っ張られるがまま足を踏み出せば、桜の絨毯が足の裏を優しく受け止めた。

──出店の量は多い。焼きそばやりんご飴から始まり、射的やヨーヨー釣りなどの娯楽品、わたあめやクレープなどのスイーツ系が豊富に取り揃えてある。時々見たこともない商品が御籤屋やアクセサリー店などに売っており、その度に足が止まってしまう。

マサキくんはなにかに気づいたのか「すみません、ちょっと待っててください」と告げると、露店に向かって走り出した。

「おっちゃん! たこ焼きひとつ!」

「毎度あり! って、おいおい、マサキじゃないか!」

「おっちゃんこそ、店出すなら言ってくれても良かったのに」

「言おうにも手伝い断ったのはお前さんの方だろうが! ったく、おかげで箕輪さんすげえキレててよ、大変だったんだからな」

「マジで? 顔合わせたら殴られそうだなあ……」

「一回くらい殴られろ。じゃなかったらせめて二つ買ってけ、二つ! もちろん一番高いやつな!」

「げっ! そりゃあねえぜおっちゃん!」

「うっせ! 自分の分だけ買いやがって! あの嬢ちゃんの分くらい買ってやれ!」

「うぐっ、!」

ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるマサキくんと、店主。遠慮のない物言いに、仲の良さを垣間見たような気がしてつい笑ってしまいそうになる。しかし、言葉に詰まったのはマサキくんの方で。勝敗は残念ながら店主の方に傾いたようだった。