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低く、空気をふんだんに含んだような音は、まさしく太鼓の音。次いで聞こえる高い音は笛の音で、恐らく一つの音楽を作っているのだろう。

僕は振り返ると、未だ名刺をじろじろと見ているマサキに問いかけた。……そこまで見られると少し恥ずかしいのだが。

「失礼。今日はこの辺で何かあるのかい?」

「知らないんですか?」

キョトンとした顔で僕を見上げる彼に「今日この街に来たばかりなんだ」と告げれば「だからか」と彼は呟いた。何でも、今日、この時間でここを歩いている人間の方が珍しいのだとか。

マサキは名刺を大事そうに懐に仕舞うと、宙を指差す。そっちの方は確かに太鼓と笛の音が聞こえる方向だった。

「大通りの方で桜まつりをやっているんです。この街の桜は観光名所としても良く取り上げられるくらい有名ですからねぇ。みんな力が入ってるんですよ」

「大通りだと屋台とかも出てますし、結構楽しいと思いますよ!」

「へえ。そうなんだ」

声を上げて楽しそうに説明してくれる二人曰く、どうやらこの地域限定の奉納の舞もあるらしい。それがかなり珍しいとかで、観光客はみんな先にそっちに行くのだとか。

「そういえば、ポスターを時々お見掛けしていましたね」

「ああ、そういえば。観光案内所にもあった気がするよ」

(……あんまりしっかりと見ていなかったけど)

ちょっと古臭いポスターの存在を思い出しながら、僕はそう答える。僕たちの目的は『華絵 彼岸花』だったから、あんまり他のものに目を向けていなかったのも事実だ。

「あなた、少し行ってみませんか?」

「ああ、そうだね。せっかくだし少し覗いていこうか」

「それじゃあ、俺たちが案内しましょうか?」

「え?」

マサキくんからの突然の申し出に、僕は声を上げてしまう。

(何か狙いでもあるのか!?)

「そんなに身構えなくても、別に何もありませんって。ただ暇だし、一応見ておいた方がいいかなと思っただけで」

「見ておくって、君たちは地元だろう? こう言ってはなんだが……見飽きているんじゃないのかい?」

「それはそうなんですけどね。一応知り合いというか、お世話になってる人が取り仕切っているんですよ」

「去年行かなかったらこっぴどく怒られましたし」と呟いたマサキくんは、その時のことを思い出しているのか眉を顰めて視線を逸らした。その顔はまるで親に怒られたことを思い出している子供のようで、年相応な表情に笑ってしまいそうになる。

「だから顔出しついでにってことで、どうです?」