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どこまで知られているのかはわからない以上、自分からぼろを出す気はないが、そう考えておいていいだろう。僕はゆっくりと息を吸い込んで、少年を見る。……彼が天才だろうが何だろうが、関係ない。

――こっちとら、社会で何年も揉まれてきた〝大人〟なのだ。

これくらいの逆境、へでもない。

僕は頬をゆっくりと引き上げると、笑みを浮かべる。これは大人としての矜持だった。

「ああ。君の言う通り、僕たちはその『華絵 彼岸花』を求めてやって来た。僕の本当の職業は記者だ。といっても文学や美術系をまとめるものでね。スキャンダルとかそういうのは別の奴の仕事だよ」

「へえ。それで、取材でもしに来たっていうんですか?」

「その通りだよ」

「それを俺たちが信じるとでも?」

「信じてもらえないと困るかな。こっちも仕事で来ているんでね」

向けられる視線をじっと見つめる。バチバチと火花を散り、品定めするように動く視線を、僕はただただ受け入れる。ここで引いてしまえば、きっともう二度と絵画を目にできる機会はなくなってしまうだろう。

(そんなのが部長にバレたら、クビになる……!)

旅行の費用だって、経費で落ちるからとこうして来ているのだ。全額負担とか絶対にしたくない。一体いくらになるというのか。計算すらしたくない。

――つまり、こっちは生活が懸かっているのだ。ここで引くわけにはいかない。

「呪われるかもしれませんよ?」

「そんな偶然の連鎖なんかで引き下がると思われては困るなぁ」

「……物好きですね」

「よく言われる」

少年の言葉に間髪入れずに答えていれば、彼は少しして少女――nezasaを振り返った。顔を見合わせ、何かを呟くと彼女は頷く。

「わ、わかりました。信じることにします。取材は今すぐ、ですか?」

「ありがとう、助かるよ。いや、取材はまた今度……できれば絵を見ながらがいいな」

「それは……今はまだ、お見せできる状況ではなくって……」

「そうなのかい? それじゃあ、見せられるようになったら連絡してくれ」

「は、はい」

僕は懐から名刺を取り出すと、彼女へと手渡した。ついでにマサキにも渡せば、「本物の名刺だ……!」となぜか感動された。

(変な子だな……)

ちゅう秋といい彼といい、陰陽師を名乗る人間は少し変なところがないとなれないのだろうか。



「はあ」と静かにため息を吐けば、ボン、ボンと聞こえてくる音に周囲を見渡す。