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「? そんな風に呼ばれているのか?」

「え、あ。……そうなんですか?」

「僕に聞かれても」

何故か跳ね返って来た質問に、僕は苦く笑う。……なんだろう。この違和感は。

僕は彼女たちにここに来るまでに聞きかじった『華絵 彼岸花』について話始めた。もちろん、元の情報は伏せて置き、自分がそれを探していることも伏せておく。

二人は顔を見合わせる。……アイコンタクトをしているようには見えない。

「君の絵、大変なことになっていないか」

「だから言ってるじゃん」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

ふと聞こえた言葉に、僕は慌てて声を上げる。

マサキと少女の視線が、僕を見つめた。それはもう、無垢に。純粋に。

「……もしかして君が、あの〝nezasa〟なのかい?」

「は、はい」

「『華絵 彼岸花』を描いたのも?」

「わ、私です……」

僕は天を見上げた。あまりにも突然の現実に、そうせざるを得なかった。

(……うそだろう?)

こんな年端も行かない少女が。あの儚くも美しく、人を魅了する迫力を持つ絵を描いたというのか。

(――なんという、才能)

それは確かに、用心棒なしには外を歩くのも危険かもしれない。内情をあまり知らない自分ですらそう思うのだから、近しい人間は気が気じゃないだろう。

「そういや、お兄さんたちも『華絵 彼岸花』を見に来たんだろ?」

「「!!」」

不意に。何の前触れもなく核心を突かれ、僕と妻は顔を上げる。

少しばかり警戒心が顔を擡げたのは、前科があるからだった。

「……どうしてそう思うんだい?」

「言ったじゃないですか。俺は“天才陰陽師の末裔”なんですよ」

「これくらいの事を知るのに、特別な出来事は必要ないです」と笑うマサキくんに、僕は息を飲む。彼が腕を右腕を掲げた途端、聞こえた羽音に、僕と妻は顔を上げた。しかし、そこには何もいなかった。

(何か、いるのか……?)

眉を寄せ、じっと空を睨むように見つめる僕に、マサキ君はにやりと笑う。「この町は俺たちの縄張りなんで」と告げる彼は、ぴゅうっとうち笛を吹くと視線を僕たちに戻した。その目を追いかけてみるが、……残念ながらか彼が見ているものを見ることは出来なかった。

(……こりゃあ、嵌められたな)

――この感覚を、僕は知っている。

宙を見つめ足を止める親友の姿を、僕の背中を見つめ嫌そうな顔をする親友の顔を――いったい何度見てきたと思っているのか。

(この分じゃあ、きっと自分の本当の職も気づかれているのだろう)