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「ありがとうございます……!」

「僕たちのほうこそ」

笑う少女に、僕たちも笑う。

少女に絵が完成したら引き取らせて欲しいと告げれば、二日ほど時間が欲しいと言われた。

「すみません……今すごく、時間を作るのが難しくって……」

「それは構わないさ! それより……何かあったのかい?」

「……それが」

僕の問いかけに、少女は静かに話し出した。

彼女曰く、どうやら少女の描いた絵が元で問題が起きてしまっているらしい。最近まで彼女自身も外に出ることができない日々を送っていたほどに。

「最近は一緒に来てくれる子がいるので、こうして外にも出られるんですけど……」

「一緒に来てくれる子? その子は今どこに?」

「あ、えっとさっきお手洗いに行くって言って――」



「ネザサ!」

張り上げられた声に、少女がはっとする。彼女が振り返り、僕も視線をそちらへと向ける。そこにいたのは、学生服に身を包んだ少年が驚いた顔をしてこちらを見ていた。

僅かに警戒しているのが伺える。

「マサキ!」

「悪い、思ったより混んでて……って。その人たちは?」

「あ」

マサキと呼ばれた少年に少女が声を上げる。向けられた二対の視線に、僕は苦笑いをしながら自分と妻の紹介をした。職業は写真家であることにしたのは、何となく本能が警鐘を鳴らしたからである。

「そうだったのか! こほんっ。あー、初めまして! 僕はマサキと言います! こう見えて天才陰陽師の末裔をやってるんですよ! あ、これ名刺です」

「あ、ああ。よろしく、マサキ君」

「何かあったら連絡してください! ひとっとびで向かいますよ!」

「はははは……それは頼もしいね」

胸を張るマサキに、僕は頬を引きつらせる。……なんだろうか。知り合いの知り合いを思い出す。

手作りらしき名刺を懐に入れつつ、僕は問いかける。……妻にまで名刺を配っているところを見るに、彼は相当仕事を探しているらしい。

「えーっと、マサキくんは彼女の用心棒をやっているのかい?」

「え、ああ、はい! それに近いことをしています!」

「“近いこと”?」

「箕輪会長に『華絵 彼岸花』を守ってくれって言われてるんですよ」

「「!」」

マサキの言葉に、僕は目を見開く。

(『華絵 彼岸花』、だって……!?)

まさかここでそんな話が出るとは思っていなかった。しかし、これは好都合かもしれない。

僕は好機とばかりに問いかけた。

「もしかしてあの、呪われているとかいう絵の事かい?」

「ちょっと、あなた……!」