02
「はい、もしもしー! 天才陰陽師、マサキへお電話いただきましてありがとうございまーっす!」
「……相変わらずだなぁ、お前は」
「あ? なーんだ。会長さんじゃないですかぁー」
マサキは受話器の向こうから聞こえる声に、明らかに落胆した様子を見せた。カップラーメンを引き寄せ、マサキは揃っていない箸で行儀悪く啜る。
「なんだとはなんだ。せっかく人が仕事の依頼をしてやろうと連絡したというのに」
「え!? 仕事くれるんすか!?」
「変わり身が早すぎるだろう。あと飯を食いながら話すんじゃない」
「んー、別にいいじゃないですかぁ。んで、何の御用ですー?」
「……はあ。お前は相変わらず……ああもう、いい。話が進まん」
自治会の会長は呆れた声で吐き捨てると「とにかく来てくれ」と口にした。マサキは麺を啜りながら首を傾げる。
「どういうことです?」
「口頭では言いづらいのだ。いいから来てくれ。今日中だ今日中」
「はあ? 今ぁ?」
「いいか、出来るだけ早く来るんだ。いいな」
そう言って会長は電話を切った。無情にも途切れた通信にマサキは苦悶の顔を浮かべる。
「身勝手にもほどがあるだろう、なあ、ちう」
「ちう~っ!」
「そう思うだろう。うん、うん」
「ちう、ちう」
「ん? ああ、わかっているよ。まずは飯を食ったらな」
「ちうちう!」
「ハイハイ。ったく、お前は食いしん坊なんだからなぁ」
肩に乗って頬を突っつくちうの嘴に、マサキはカッターナイフを手に取った。自身で指先を切り、ちうの口元へ持っていけばちうは嬉しそうに啄む。式神であるちうにとってはそこらのネズミよりも、使役する主の血を食べる方が効率的だ。
「よっし! 行くぞー、ちう!」
「ちーうっ!」
腹いっぱいになった二人は再び古家を出ると、かの会長がいる場所へと向かった。
「はー。やっぱ寂れてんなぁ~。なあ、ちう」
「ちうちう」
会長がいる場所は、マサキの住んでいる場所からそう遠くはない。
かつては都会を囲むベッドタウンの一つだったこの町は、今では若者の活気もなくなり、老人の溢れる場所となっていた。若者が好きそうなカフェや服屋は次々に潰れ、老人ホームや介護施設が建設されていく。洋菓子も和菓子中心の店となり、その数もどんどん少なくなっていく。賑わっていた駅前も、今ではシャッター街だ。目ぼしいものがあると言えば、街の中央を流れる川を中心に咲き誇る桜道だけである。
そんな寂れた街を闊歩しながら、マサキはぶらぶらと目的地へと向かっていた。
「はい、もしもしー! 天才陰陽師、マサキへお電話いただきましてありがとうございまーっす!」
「……相変わらずだなぁ、お前は」
「あ? なーんだ。会長さんじゃないですかぁー」
マサキは受話器の向こうから聞こえる声に、明らかに落胆した様子を見せた。カップラーメンを引き寄せ、マサキは揃っていない箸で行儀悪く啜る。
「なんだとはなんだ。せっかく人が仕事の依頼をしてやろうと連絡したというのに」
「え!? 仕事くれるんすか!?」
「変わり身が早すぎるだろう。あと飯を食いながら話すんじゃない」
「んー、別にいいじゃないですかぁ。んで、何の御用ですー?」
「……はあ。お前は相変わらず……ああもう、いい。話が進まん」
自治会の会長は呆れた声で吐き捨てると「とにかく来てくれ」と口にした。マサキは麺を啜りながら首を傾げる。
「どういうことです?」
「口頭では言いづらいのだ。いいから来てくれ。今日中だ今日中」
「はあ? 今ぁ?」
「いいか、出来るだけ早く来るんだ。いいな」
そう言って会長は電話を切った。無情にも途切れた通信にマサキは苦悶の顔を浮かべる。
「身勝手にもほどがあるだろう、なあ、ちう」
「ちう~っ!」
「そう思うだろう。うん、うん」
「ちう、ちう」
「ん? ああ、わかっているよ。まずは飯を食ったらな」
「ちうちう!」
「ハイハイ。ったく、お前は食いしん坊なんだからなぁ」
肩に乗って頬を突っつくちうの嘴に、マサキはカッターナイフを手に取った。自身で指先を切り、ちうの口元へ持っていけばちうは嬉しそうに啄む。式神であるちうにとってはそこらのネズミよりも、使役する主の血を食べる方が効率的だ。
「よっし! 行くぞー、ちう!」
「ちーうっ!」
腹いっぱいになった二人は再び古家を出ると、かの会長がいる場所へと向かった。
「はー。やっぱ寂れてんなぁ~。なあ、ちう」
「ちうちう」
会長がいる場所は、マサキの住んでいる場所からそう遠くはない。
かつては都会を囲むベッドタウンの一つだったこの町は、今では若者の活気もなくなり、老人の溢れる場所となっていた。若者が好きそうなカフェや服屋は次々に潰れ、老人ホームや介護施設が建設されていく。洋菓子も和菓子中心の店となり、その数もどんどん少なくなっていく。賑わっていた駅前も、今ではシャッター街だ。目ぼしいものがあると言えば、街の中央を流れる川を中心に咲き誇る桜道だけである。
そんな寂れた街を闊歩しながら、マサキはぶらぶらと目的地へと向かっていた。