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「おい! おい、見てくれ! 花びらが!」

「はいはい。ちゃんと見えていますよ。綺麗ですね」

「だろう!? こりゃあ縁起がいい!」

はっはっは、と高笑いをしながら、僕はカップを掲げる。

「あなたったら……あんまり燥がないでくださいね」

「いいじゃないか。君もたまには燥いだ方がいいぞ」

「私は結構です。それに、こう見えてもちゃんと楽しんでいますから、お気になさらず」

小さく笑みを浮かべ、目を伏せる妻。何が楽しいのか、ふっと微笑んだままの口元は自分の欲目ではなく、美しいものだった。

僕はふっと視線を逸らし、周囲を見回した。……頬に紅が走っている姿なんて、情けなくて見せられたものではない。

人っ子一人いない世界に、僕たち二人だけが存在している。……そんな気分になりつつ、僕はふと感じる視線に振り返った。刹那、ぱちりと合う視線。

「!」

「どうかしたんですか?」

「あ、ああ、いや……」

無意識に指を向ければ、妻の視線がそれを辿る。

川を隔てた向かいには、一人の少女が座り込んでいた。――否、老婆、だろうか?

(……あんなに綺麗な白髪は初めて見たな)

まるで絹の糸のような艶やかな白髪に、僕は瞬きを繰り返す。少女は気づかれたことに焦っているのか、慌てて頭を下げていた。

「……あなた」

「あ、ああ。すまない」

妻の声に、慌てて視線を外す。妻を見ればその白い頬は少しばかり不満げに膨らまされていた。しかし、僕はそれどころではなかった。

僕の直感が囁く。――彼女は、只者ではない、と。

「……気になりますか?」

「うーん……少し」

「声、かけてみたらどうですか?」

「うーん」

妻の言葉に僕は唸る。顎に手を当て、空を見れば眩しさに目を閉じた。

「……そうしたいのは山々なんだが、僕が行って警戒されないかどうか……ほら、こう見えても僕は男だろう? 対して向こうは可憐な少女だ。怯えさせるのは本意じゃあない」

「はあ。……何を言うかと思えばそんな当然のことを」

「だから、良ければ君に第一声は任せたいと思うのだけれど」

「わ、私ですか?!」

「君は女性だろう? 警戒も薄くなるかと思って」

そう告げれば、妻は驚いたように振り返った。川向うにまだいた少女は、驚きに肩を揺らす。

(そんなに驚くことだったか?)

妻の反応に首を傾げつつも、僕は「頼むよ」と両手を合わせた。お茶が零れそうになり、慌てて持ち直す。

「……構いませんけれど」

「本当かい!?」