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まん丸な顔を顰めてこちらを見上げていた。

(び、びっくりした……!)

「す、すみません。考え事をしていたものですから」

「ふん。まあ別に構いやしないさ。それよりアンタたち、『華絵 彼岸花』に興味があるのかい?」

「えっ」

「やめときな! あんな曰く付きの絵、あんた達不幸にしかならないよ!」

「「ええ?」」

おばあさんの言葉に、僕は首を傾げる。

(不幸になる?)

絵を買っただけで? どういうことだ?

「すみません、あの……それはどういうことですか?」

「何だい、あんた達知らないのかい? 『華絵 彼岸花』は不吉を呼ぶ絵画なんだよ」

「不吉を呼ぶ……」

「絵画だって……!?」

妻の言葉を引き継いで声を上げれば「仲がいいわねぇ」とおばあさんが朗らかに笑う。

おばあさんの警戒が緩んだところで、記者の僕の出番だ。

「お姉さん、もしお時間があれば『華絵 彼岸花』について知っていることを教えてくれませんか?」

おばあさんにそう問いかけると、彼女は「いやねえ! お姉さんだなんて!」と声を上げ、その言葉とは裏腹に意気揚々と話し始めてくれた。

「あの絵画はねぇ、呪われているのよ」

「“呪われている”?」

「そうなのよ! 絵画を最初に買ったの、お隣のおじいさんだったんだけどね。階段から足を滑らせたり、車に轢かれそうになったり、そりゃあもう大変だったのよぉ!」

「ええ? それは単に偶然とかじゃ……」

「偶然なんかじゃないわよ! あの絵を手に入れてから何人もの人間が不審死を遂げているんだから!」

「ふ、不審死……!?」

おばあさんからの情報に僕は目を見開く。まさか実害まで出ているなんて。

(不幸になるなんて言うから、気の持ちようとかそういうものだとばかり……)

「当時警察沙汰にもなったんだけどね、何かあるわけでもないって……絶対絵の呪いよ! そうじゃなきゃおかしいわ!」

「あんたもそう思うでしょ!?」と問われ、僕は頷くとも首を振るとも取れる不可思議な動きで問いかけを受け流す。

(呪いなんてそんな非現実的なもの、信じていいのか……?)

もし本当にそうなら担当は自分じゃなくて別の部署になるだろう。それこそ、スキャンダルとかホラー雑誌とか。

「あんなに大金叩いたっていうのにねぇ。死ぬくらいなら買わない方がいいわよ、あんなもの!」

「そんなに高かったんですか?」

「当然じゃない! オークションでも一番の目玉だったんだもの。競争率もすごかったらしいわよ~?」

「ええ? 最後はどれくらいの倍率に?」