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「ほう、二週間後か。今回の旅行は一週間だから、流石に難しそうだなぁ」

「そうですね」

「残念です」と告げる妻に、僕も頷く。

青い空、等間隔に植えられた鮮やかな桜、そこから舞い降りる桃色の花弁。そして、水のせせらぎと五月蠅くないほどの人の喧騒。全てが仕組まれていると思うほど整っているというのに、これ以上の光景が存在すると聞けば見たくなるのも当然だ。

(流石に仕事を休んでまでは来れないだろうなぁ)

仕事と称して写真を撮りに来てもいいのだろうが、残念ながらそういうものを撮るのは別の奴の方が上手い。それに、もしこれたとしても妻と一緒に来るのは難しいだろう。彼女も忙しいのだ。

「うーん」と思考を回し、唸っていれば不意に腕を引かれた。腕を引いたのは、妻だった。

「まあまあ。それはまた今度考えましょう。今年だけじゃあありませんし。それよりも、明日はお祭りがあるそうですよ」

「祭り?」

「ええ」

妻が頷き、細い指で何かを差す。そちらへ視線を向ければ、確かに地元の祭りのお知らせをしているポスターが貼られていた。『桜まつり』と大々的に書かれたそれは、見ているだけで心を躍らせる。――しかし、僕の目を引いたのは隣にある古ぼけたポスターの方だった。

『名画があなたの手に!? 絵画オークション開催!』

(絵画、オークション……?)

珍しいそのイベントは、どうやら数年前に行われたものらしい。ポスターは既に日焼けして、赤紫に染まった表面が辛うじて形を保っている状態である。

僕は無意識に近寄り、じっとポスターを見つめる。そこには出品されたらしい絵画が、辛うじて数点読み取ることができた。

ダ・ヴィンチの『モナリザ』の模造品や、ゴッホの『ひまわり』の模造品、『朝のひと時』や『カスミソウ』などの知っている人なら知っているかもしれない名前の絵画が並ぶ中、僕は掠れた文字を目にした。

「『華絵 彼岸花』……」

「え?」

「見てくれ。『華絵 彼岸花』が、名画オークションに出品されていたらしい」

僕は妻に見えるよう体を避ける。妻がポスターを覗き込み、「本当ですね」と驚いた声を上げた。

途端、後ろからしゃがれた声がかけられる。

「おや。お前さんたちも『華絵 彼岸花』に興味があるのかい?」

「うわああっ!?」

「ちょっと。人の声を聞いて叫び声を上げるなんて失礼だねぇ」

バンバンと背中を叩かれ、僕は慌てて振り返った。衝撃に揺れる視界で見えたのは、エプロンを付けたおばあさん。