10
突然のことに彼女は一瞬首を傾げたものの、すぐに「捨てるのでいらないです」と答えた。満足そうに頷いたマサキは、絵を綺麗にまとめ、躊躇いなく四つに折った。
「持ってて」
「はい。……それは?」
「ふふふ、今から使う印だよ」
「いつでも使えるように持ち歩いてるのさ!」と笑ったマサキに、少女は何を言えばいいのかわからずにいた。少女の目には単なる文字の羅列に見えるそれは、一見するとお札のようにも見える。
マサキはそれを紙に貼り付けると、彼女の硯から転げ落ちていた筆を手に取った。筆の先に朱墨を付けると、お札の上に円を描く。
「何をしているんですか?」
「んー? おまじない!」
「おまじない?」
「そうそう! 綺麗に咲きますようにーって!」
マサキはそう言うと、紙をさらに半分に折って両の手で覆い隠してしまった。挟み込むような手の間から、マサキはふうっと息をひとつ。途端、マサキの手の中からぶわりと赤い花が咲き誇った。
驚いた少女の口元からハンカチーフが落ちる。マサキは自信満々に笑みを浮かべると、少女へとその花束を手渡した。
「す、すごい……! すごいです!」
「ふはははは! そうだろうそうだろう! 僕は天才陰陽師、マサキ……」
「手品みたい!」
「うぐっ!」
少女の率直な感想に、マサキは苦しそうな声を上げると胸元を掴んだ。花を持つ手が震える。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うう……それは言わないでくれ……」
「えっ? え、っと、あの……すみません?」
「くぅうう……これでも中級の陰陽師しか使えないものなのに……くそぉ……!」
ブツブツと呟くマサキの言葉は、残念ながら少女には届かなかった。首を傾げたままの少女にマサキはため息を吐くと、落ちたハンカチーフを拾い上げた。慌てて伸ばされる手には、先ほど具現化させた赤い花を渡す。彼女の唇についていた血は、どうやら無事止まったようだ。
「あ、ハンカチ……」
「ん? ああ、大丈夫。気にしないで。それより、君に聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
「君は、『華絵 彼岸花』って知ってる? それか、画家のnezasaさんって人」
「!?」
少女はビクッと肩を跳ね上げる。その様子に、マサキは自分の仮説が確かだったことに確信を抱いた。
――マサキは彼女と会話をしながら、思っていた。
彼女が、マサキの探していた画家のnezasaなのではないか、と。
根拠になるような証拠はないが、マサキは彼女の手元に握られた自身の生み出した花を見つめる。
突然のことに彼女は一瞬首を傾げたものの、すぐに「捨てるのでいらないです」と答えた。満足そうに頷いたマサキは、絵を綺麗にまとめ、躊躇いなく四つに折った。
「持ってて」
「はい。……それは?」
「ふふふ、今から使う印だよ」
「いつでも使えるように持ち歩いてるのさ!」と笑ったマサキに、少女は何を言えばいいのかわからずにいた。少女の目には単なる文字の羅列に見えるそれは、一見するとお札のようにも見える。
マサキはそれを紙に貼り付けると、彼女の硯から転げ落ちていた筆を手に取った。筆の先に朱墨を付けると、お札の上に円を描く。
「何をしているんですか?」
「んー? おまじない!」
「おまじない?」
「そうそう! 綺麗に咲きますようにーって!」
マサキはそう言うと、紙をさらに半分に折って両の手で覆い隠してしまった。挟み込むような手の間から、マサキはふうっと息をひとつ。途端、マサキの手の中からぶわりと赤い花が咲き誇った。
驚いた少女の口元からハンカチーフが落ちる。マサキは自信満々に笑みを浮かべると、少女へとその花束を手渡した。
「す、すごい……! すごいです!」
「ふはははは! そうだろうそうだろう! 僕は天才陰陽師、マサキ……」
「手品みたい!」
「うぐっ!」
少女の率直な感想に、マサキは苦しそうな声を上げると胸元を掴んだ。花を持つ手が震える。
「だ、大丈夫ですか!?」
「うう……それは言わないでくれ……」
「えっ? え、っと、あの……すみません?」
「くぅうう……これでも中級の陰陽師しか使えないものなのに……くそぉ……!」
ブツブツと呟くマサキの言葉は、残念ながら少女には届かなかった。首を傾げたままの少女にマサキはため息を吐くと、落ちたハンカチーフを拾い上げた。慌てて伸ばされる手には、先ほど具現化させた赤い花を渡す。彼女の唇についていた血は、どうやら無事止まったようだ。
「あ、ハンカチ……」
「ん? ああ、大丈夫。気にしないで。それより、君に聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
「君は、『華絵 彼岸花』って知ってる? それか、画家のnezasaさんって人」
「!?」
少女はビクッと肩を跳ね上げる。その様子に、マサキは自分の仮説が確かだったことに確信を抱いた。
――マサキは彼女と会話をしながら、思っていた。
彼女が、マサキの探していた画家のnezasaなのではないか、と。
根拠になるような証拠はないが、マサキは彼女の手元に握られた自身の生み出した花を見つめる。