01

少年――マサキは静かに空を見上げる。

青い空と白い雲。春独特の陽気な陽射しと鳥の音に、マサキは心地よさそうに目を細めた。

「うーん! いい天気!」

陰陽師として活動するようになって数年が経った。

こうしてうららかな陽射しの中、桜の木が立ち並ぶ並木道を歩くのももう何度目だろう。七分咲きの綺麗な桜を横目にマサキは唇に指先をくっつけた。ピィと響く笛の音に呼応するように、マサキの頭上に一羽の鳥が舞い上がってくる。

「ちうっ、ちうっ」

「ははっ! くすぐってーよ、ちう~!」

ちうと呼ばれた鳥はマサキの頭上をクルクルと楽しそうに羽ばたくと、マサキの頬に自身の小さな顔を摺り寄せる。羽毛の感触にマサキは豪快に笑った。

――ちうはマサキの操る式神の一匹だった。

橙色の嘴が可愛らしくマサキの頬を啄んでいる。そんなちうの頭をマサキは指先で撫でると、隣を流れる小さな小川を見た。船に乗った観光客がゆっくりと流れていくのを見る。マサキはこの穏やかな時間が好きだった。



パトロールを終え、マサキは自身の部屋へと戻って来る。

狭い部屋は物が少ない。一見広々として見えるが、マサキの部屋は一人暮らしにしては豪華な八畳一間だ。床は畳で、窓の近くには畳まれた布団が平べったい山を作っている。中心の机の前には、草臥れた座布団が一つぽっち。来客用の座布団なんて、この部屋には存在しない。

「は~らへったぁ~、なーにつくろぉ~」

マサキは独り歌うように呟きながらキッチンへと向かう。式神のちうは部屋に入った瞬間、一人静かに部屋の天井すれすれをクルクルと回り出した。止まり木のような場所に止まっては、ぴいぴいと歌うように体を揺らしている。楽しそうで何よりだとちうを横目に、マサキは冷蔵庫を開ける。

「げ。なにもねーじゃん」

一体いつから買い出しに行っていなかったのか。マサキは空っぽになっている空間を睨みつけた。

怠惰な過去の自分に文句を言うが、食べ物が湧き出てくるわけもない。マサキは仕方なしに戸棚からカップラーメンを取り出すと、湯を沸かした。味気ない食事だが、ないよりは断然マシだ。

しばらくして、しゅんしゅんと音を立てる薬缶の火を止め、湯を入れる。三分にセットした目覚まし時計を片手に、マサキは座布団の上に腰を下ろそうとし――途端、響くコール音に顔を上げた。電話だ。



※食事は三食、バランスよく摂りましょう!