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 コーチが去った後、Cチームは円になった。額が出るほどの短髪のキーパーが、控えめな様子で一歩前に出る。
「Cの代表をさせてもらってる、三年の五十嵐です。一年生が担当の雑務について話します。午前の練習の前には、ボールの空気入れとボール磨きをお願いします。練習後のグラウンド整備とボールの数の確認も、しっかりやるように」
 穏やかに話す五十嵐さんは、目が大きく、鼻が高い男前である。ただキーパーだけあって、少し横に太い。
「試合のスコアの記録と、部室の清掃もお願いします。部室清掃は週一でいいんで。俺らもやってきたし、チームに必要な仕事なので頑張ってください。以上、よろしくお願いします」
「「はい」」
「じゃあ、解散」
 五十嵐さんの声を聞き、新一年生は部室に戻ろうとするが、
「おい! グラウンド整備はどうした! お前らいったい、さっき何を聞いてたんだよ! 記憶力は大丈夫か?」
 怒鳴り声の主に目を遣る。両手を握り締めた釜本さんが、冷え冷えとした目を周りに遣っていた。
 ストレッチが終わってすぐに柳沼コーチの話を聞いたので、グラウンド整備はまだだった。
「釜本、お前なー。言い方がきつすぎるぞー。一年生、入ったばっかりだろ。もうちょっと寛容になろうぜ」
 眉を顰めた五十嵐さんが、呆れたように釜本さんを諭す。どうすべきかわからない俺たちは、固まる。
「いやいや、五十嵐さん。入ったばっかにしても気ぃ、利かなさすぎでしょ。俺らはもっとちゃんとしてたっすよ」
 釜本さんは、不平たらたらである。五十嵐さんに敬語を使っているところを見ると、二年生らしい。
「まあ、これからだ。長い目で見てやろうぜ。だからあんまりうるさく言ってやるな。な、釜本」
 釜本さんの腕をぽんっと叩いた五十嵐さんは、振り返って、「一年生、グラウンド整備をよろしく」と、柔らかく頼んできた。表情はニュートラルである。
 俺たちは、ダッシュでゴール裏に向かい、横一列になってトンボを掛け始める。
 上下関係の厳しさも、覚悟はしている。でも俺、ガンガン目立ってく気でいるからね。目を付けられなけりゃ良いんだけど。