「蒼!」

 その日も部活を終え、あたしが先輩とバーやマットを倉庫に片付けているときだった。同じように、部活が終わったのだろう。野球ボールの入った箱を抱えながら、後ろから声をかけてきた人物にあたしは足を止めた。

「?」

 誰だっけ? なんとなく見覚えがあるようなないような。

「おい、つめてーな。高倉だよ。高倉久。小学生のときよく一緒に遊んだじゃねーか。ドッジや、キックベースで」
「!」

 あたしは驚いてその男子を見た。
 確かに。彼は確かに久だった。
 久の背が以前より伸びていたのと、頭が坊主になっていたので、あたしは彼が久だと気づかなかったのだ。

「久なのか?! 久しぶり! 随分背が伸びたな、久。あたしなんか中学に入ってからめっきりだよ」
「はは。最近急に伸び出した。小学生のときは、蒼に負けてたからな。なんか、中学生になってからはしゃべる機会もほんと減ったよな」

 久の言葉に、あたしは笑顔を消して黙った。

 それは違うだろう?

 中学生になってから「僕」と言わせなくしたのは、男子だったのに。集団に入れてくれなくなったのは男子だったのに。

 溝ができたように感じた。その溝は埋まるどころか深くなるばかりだった。

 久もそんな男子たちの一人だったじゃないか。

「もう部活終わるんだろ? 今日、一緒帰らねえ? 家、近かったよな?」

 久に誘われてあたしは驚いた。そんなあたしを、青木は隣でじっと見ている。

「いいけど……。なんか変な感じだな。制服着て一緒に帰るのって」
「はは。確かに。じゃ、着替えたら校門前でな!」

 久はニッと笑ってそう言うと、野球部の部室のほうへと走っていった。