立野は愛しむような目で空を見上げる。

 空を見上げていると思えば、ふと気づくと眩しいかのように、目を細めて俺を見上げているときもある。
 そんなとき、俺はくすぐったいような、嬉しいような、変な気持ちになる。悪い気はしない。むしろ、嬉しい。

 最近思ってしまう。


 もっと俺を見て欲しい。
 俺だけを見て欲しい。
 空よりも、俺を、見ろ!


 自分の中の強い想いに気づき、戸惑う。俺はいつからこんなにわがままになったのだろう。

 でも、仕方ないといえばそうなのかもしれない。今の俺の世界は立野が中心で、立野の周りしか物理的にもよく見えないのだ。だから、立野が自分と違う世界にいると感じるとき、耐え難い寂しさに襲われる。

 それで立野にも俺だけを見るように願う……?

 それは間違っている。

 わかってはいるのだが、どうにもならないこの気持ちはなんだろう。

 他の女子のところに幽霊として現れていたとしても、このような気持ちになったのだろうか……? わからない。それに仮定は仮定でしかない。今の俺のこの気持ち。

 立野は自分の性について、なにか複雑な思いがあるようだが、立野は立野だ。立野の中性的なところでさえ、彼女の魅力としか思えなくなっている。

 なんでこんなに立野が気になるのか。

 近くで一緒に過ごしているからなのか。それとも他になにか理由があるのだろうか? 

 思っておかしくなった。

 理由? ありすぎて困る。

 俺の脳裏でさまざまな立野が生き生きと動き回る。

 生きているときは気づかなかった。立野がこんなにも可愛くて魅力的なこと。 

 少なくとも、他の女子にこんな気持ちを抱いたことはなかった。

 立野に触れられたとき、どんなに嬉しかったか。

 温かくて柔らかい立野の掌の感触。もっと触りたいと思った。もっといろいろなところまで触れたい。

 思って俺はごくりと唾を呑んだ。

 それはさすがにまずいだろう。

 でも。


 立野を独り占めしたい。


 正直な今の俺の気持ち。

 この感情をなんと呼ぶのだろうか。

 初めての気持ちだ。

 苦しくて。切なくて。どこか甘い。