気づけば十月になっていた。
相変わらず、俺は成仏できないでいる。なにが問題なのだろう。
黒板を見つめる、立野の横顔を見る。どうして自分は、立野の部屋に現れたのか。未だに分からない。
立野が、シャーペンを顎に押し当てている。眉が寄せられていた。俺は横からノートを覗き込む。
「ここ、ちょっとおかしくないか?」
指摘をしてみる。
ふむふむという目で、指された個所を見つめ、考え直している立野。
一方で、授業中に手紙などを回している女子が多いことに最近気づいた。よく理解できない記号などが使われている。それはそれで楽しそうだが、授業中にこんなことが行われてたんだな、と不思議な気がする。
そう。自分が以前いたクラスだからこそ、余計に不思議なのだ。
俺は思う。場にいるから見えないこともあるのだと。
俺は自分のいたクラスのことをよく知らなかったんだ。
それにしても。
俺は教室を見渡す。ちくりと胸が痛んだ。
もう、ここに俺の居場所はないんだな。
俺は死んだのだから、当たり前といえば当たり前なのに、改めて俺は感じている。
休み時間に、俺の机の周りに集まってきていた連中も、今ではそれぞれ違う男子とつるんでいる。俺がいなくても教室はなにも変わらず、そして完全な状態なのだ。
転校先のクラスも、こんな感じなのだろう。
自分は、すでにこの世界での居場所を、失っている。自分の意思はここに存在るのに、それとは関係なく時は流れていく。止まることない時間と生の営み。
窓に目をやると、木々が赤く紅葉していた。空も晩秋へと移り変わっていっている。
居場所のない自分は、なぜここに存在なければならないのだろう。
以前より冷んやりとする風を感じながら、立野のそばにいることで、風の冷たさを、今も感じられる俺は余計に思う。
俺はあってはならない存在なのに。
ふう。思わずため息がもれた。
「?」
立野が、心配そうに俺を見上げている。黒く光る澄んだ瞳。
この少女だけが、俺が現世に存在する事実を証明しているのだ。
「秋も深まったなと思って」
そう答えると、立野も窓のほうへ視線をやって、少し寂しげな顔をした。
「冬になると、曇りが多くなるよね。曇りも嫌いじゃないけど、跳ぶ時は晴れがいいな」
とノートの端に書いてくる。
「同感」
俺は頷いた。立野はまた視線を黒板に戻した。
立野のショートの髪は、見た目より柔らかいようで、風が吹く度にふわふわと揺れる。姿勢も視線も凛としていて、漂わせる空気は柔らかさとはほど遠い。けれど、時折見せる、憂いに満ちた表情などが、妙に女っぽかったりする。
立野は不思議だ。
人工的なシャンプーの香りより、俺は立野の汗の匂いのほうが好ましい。
最近、立野と一緒にハイジャンをしていると、俺は気が散ってしょうがない。自分はこんなにいやらしい男だったのかと嫌になる。
立野の、日に焼けてはいても細くしなやかな四肢や、大きくはない双丘や、くびれた腰などに、毎回目がどうしてもいってしまうのだ。
立野は、間違いなく女性として成長している。
当たり前のことなはずなのに、今さら気付くなんて。
今まで、女子を女だ、と感じたことは正直なかった。俺は幼かったのかもしれない。こんなに近くにいることで、やっと気付いた。女は男とは全然違うということに。
とにかく心頭滅却。
立野は、俺がこんな目で自分を見てるなんて、思いもしてないのだから。
そう思いはするものの、一緒に跳ぶたびにますます立野を女として意識してしまう、いやらしい自分がいるのだった。
相変わらず、俺は成仏できないでいる。なにが問題なのだろう。
黒板を見つめる、立野の横顔を見る。どうして自分は、立野の部屋に現れたのか。未だに分からない。
立野が、シャーペンを顎に押し当てている。眉が寄せられていた。俺は横からノートを覗き込む。
「ここ、ちょっとおかしくないか?」
指摘をしてみる。
ふむふむという目で、指された個所を見つめ、考え直している立野。
一方で、授業中に手紙などを回している女子が多いことに最近気づいた。よく理解できない記号などが使われている。それはそれで楽しそうだが、授業中にこんなことが行われてたんだな、と不思議な気がする。
そう。自分が以前いたクラスだからこそ、余計に不思議なのだ。
俺は思う。場にいるから見えないこともあるのだと。
俺は自分のいたクラスのことをよく知らなかったんだ。
それにしても。
俺は教室を見渡す。ちくりと胸が痛んだ。
もう、ここに俺の居場所はないんだな。
俺は死んだのだから、当たり前といえば当たり前なのに、改めて俺は感じている。
休み時間に、俺の机の周りに集まってきていた連中も、今ではそれぞれ違う男子とつるんでいる。俺がいなくても教室はなにも変わらず、そして完全な状態なのだ。
転校先のクラスも、こんな感じなのだろう。
自分は、すでにこの世界での居場所を、失っている。自分の意思はここに存在るのに、それとは関係なく時は流れていく。止まることない時間と生の営み。
窓に目をやると、木々が赤く紅葉していた。空も晩秋へと移り変わっていっている。
居場所のない自分は、なぜここに存在なければならないのだろう。
以前より冷んやりとする風を感じながら、立野のそばにいることで、風の冷たさを、今も感じられる俺は余計に思う。
俺はあってはならない存在なのに。
ふう。思わずため息がもれた。
「?」
立野が、心配そうに俺を見上げている。黒く光る澄んだ瞳。
この少女だけが、俺が現世に存在する事実を証明しているのだ。
「秋も深まったなと思って」
そう答えると、立野も窓のほうへ視線をやって、少し寂しげな顔をした。
「冬になると、曇りが多くなるよね。曇りも嫌いじゃないけど、跳ぶ時は晴れがいいな」
とノートの端に書いてくる。
「同感」
俺は頷いた。立野はまた視線を黒板に戻した。
立野のショートの髪は、見た目より柔らかいようで、風が吹く度にふわふわと揺れる。姿勢も視線も凛としていて、漂わせる空気は柔らかさとはほど遠い。けれど、時折見せる、憂いに満ちた表情などが、妙に女っぽかったりする。
立野は不思議だ。
人工的なシャンプーの香りより、俺は立野の汗の匂いのほうが好ましい。
最近、立野と一緒にハイジャンをしていると、俺は気が散ってしょうがない。自分はこんなにいやらしい男だったのかと嫌になる。
立野の、日に焼けてはいても細くしなやかな四肢や、大きくはない双丘や、くびれた腰などに、毎回目がどうしてもいってしまうのだ。
立野は、間違いなく女性として成長している。
当たり前のことなはずなのに、今さら気付くなんて。
今まで、女子を女だ、と感じたことは正直なかった。俺は幼かったのかもしれない。こんなに近くにいることで、やっと気付いた。女は男とは全然違うということに。
とにかく心頭滅却。
立野は、俺がこんな目で自分を見てるなんて、思いもしてないのだから。
そう思いはするものの、一緒に跳ぶたびにますます立野を女として意識してしまう、いやらしい自分がいるのだった。