空!

 視界いっぱいの青い空に、俺は体をゆだねる。秋の空は高くて蒼い。

 今日はうろこ雲が見えるな。

 トスッと隣から音。
 横を見ると、気持ちよさそうに口元をほころばせる立野の顔。その額には球のような汗。前髪も、短い襟足も汗でぬれている。
 こうしている間にも、思っていたよりも随分細い立野の首筋を、汗がつたっていく。
 きゃしゃな肩。日に焼けた細くしなやかな肢体。そして二つの小さな膨らみ。俺とは明らかに違う。

 ゆっくりと立野の体を、なぞるように見回して、俺ははっとした。あわてて俺は立野から視線をそらす。

 な、なにやってるんだ、俺。立野が懸命にハイジャンやってるのに、俺は今なにを見ていた?

 近くにいると、立野の汗の匂いや、熱い呼吸を感じる。
 でも、男同士でいるときに感じたような、暑苦しいような、不快な臭いではなくて、ほんのり甘いような匂い。シャンプーの甘さとは違う、鼻腔の奥をくすぐる香り。

 俺、変だ。

 ぶんぶんと頭を振っていると、不思議そうに立野が、俺を見つめていた。近くにいる俺を、信頼しきっている、黒曜石のような二つの瞳。

 どきりとした。

 こんないやらしい俺を見透かさないでくれ、と思うのに、もっと見つめていたくなる綺麗な目。立野の、真っ直ぐで純粋な心を表しているような美しい瞳だ。

「空に酔った?」

 立野は爽やかに笑うと、すくっと立って助走の位置に戻っていく。その姿は颯爽としていて、格好いいという表現が相応しい。

 一見男子のようだと思っていた。女っぽさを感じないと。

 それは間違いだった。男子とは全然違う。どこを触っても柔らかそうな、壊れてしまいそうな……。
 
 近くに立野がいると、手を伸ばしてしまいそうになる。触れることなんてできないのに。

「疲れたなら、見学してなよ」

 霊体に疲れるも何もないのだが、もう一度、一緒に跳ぶのは躊躇われた。心臓があった部分がうるさい。

 やっぱり俺、変だ。

 立野の笑顔が、瞳が、身体が、こんなにも気になる。

 もっと立野を知りたい。どんなことを考えて、どんなことに興味があるのか。

 俺は自分に戸惑っていた。