***
翌日。
広田先輩があたしに告白したことが、なぜか陸上部全体に広まっていた。
誰かが見ていたのかもしれないし、本人が言ったのかもしれない。
「広田先輩かっこいいのに、なんで立野振ったの?」
短距離の早田が、個人練習前のストレッチのときに言ってきた。その言葉には興味より、責める響きがあった。
あたしは嫌な気分になった。
「じゃあ、早田はかっこよければ誰でもいいの?」
あたしの言葉に、早田は面食らったように顔を赤くした。
一気に場の空気が重くなった。
青木も複雑な顔で黙りこくっている。
あ~あ、失敗。青木にも、嫌なところ見られちゃったな。
陸上部では部活という共通点があるおかげで教室よりかは浮いてなかったのに。やっぱりあたしはどこかおかしいんだ。
なんであたし、広田先輩に告白なんてされたんだろ。
***
「立野ってさ、同学年女子にいじめられてんの? 大丈夫?」
西月先輩がハイジャンの練習のときに言ってきた。あっけらかんと訊いてくるのが西月先輩らしい。
「いじめられてはいません」
あたしは事実を述べる。
「ならいいんだけどさ。立野、一年の女子とあまりつるんでるの見ないし、特に今日は空気悪かったからさ。気になって」
西月先輩からの心配は少しだけ嬉しく思えた。
「あー、広田先輩のことでちょっと言われただけです」
「なるほど。立野、広田から告白されたんだってね。広田、悪くないと思うけど? なに? 立野、好きな人でもいるの?」
西月先輩の口から言われて、あたしはドキッとした。
「い、いません!」
声が裏返った。なんでだろう。広田先輩から言われたときは動揺もしなかったのに、なんだか頬が熱い。
あたしは嘘は言っていない。
青木は好きな人なんかじゃないもん。広田先輩の、あたしに対してのような軽い気持ちとは違うんだから。
あたしは、西月先輩からも青木からも目を逸らすようにして俯いた。
「ふーん? 赤くなっちゃって。まだ子供だねえ、立野は」
西月先輩に悪気は全くない。でもこのときはカツンときた。
まだ中学一年だよ? 子供で何が悪いの?
みんなみたいに急ぎ足で大人のふりすることがいいとは思わない。逆におかしいよ。
あたしは冷静になろうと息を吐いた。
「じゃあ、そういう西月先輩はどうなんですか?」
お返しとばかりに訊き返す。部活馬鹿の西月先輩だ。きっとそんな対象いないはず。
「え? 言ってなかったっけ? あたし、濱崎と付き合ってるよ」
「え?!」
あたしと同じように、青木も驚いたように西月先輩のほうを見た。
すらっと背が高くてボブの似合う美人の西月先輩。綺麗なのに女女してない性格が好ましくて、あたしは西月先輩には心を許していた。その西月先輩が長距離の濱崎先輩と付き合ってるなんてあたしは全く知らなかった。
濱崎先輩のことはよく知らないけれど、ふんわりと柔らかな空気を纏った男性だった気がする。二人が一緒にいるところが、全く想像できない。
「西月先輩って、濱崎先輩が好きなんですか?!」
「好きじゃなかったら付き合わないでしょ」
怪訝そうな顔で西月先輩に言われた。
あたしは青天の霹靂という感じで、その日珍しくハイジャンに身が入らなかった。
あの西月先輩でさえ、好きな人がいる……。
恋愛とはほど遠い感じがしたのに。
「立野ってさ」
青木に帰り道、声をかけられて、
「なに?」
とぶっきらぼうにあたしは返した。
青木に、今日のようなあたしの中学校生活を見られるのは、すごく不本意な気がした。
「不器用なのかな」
「器用じゃないよ」
「そういう意味じゃなくて。立野は、もっと自分の考えてることを伝えた方がいいんじゃないか? ハイジャンしてるときの立野は、ほんと素直なのにな」
「伝える? 素直?」
「うん」
「よく、分からない。最近よく分からないことが多すぎて本当、嫌になる」
「そうかもな」
あたしと青木は、わかったようなわからないような感じで、その後、黙って家まで歩いた。
翌日。
広田先輩があたしに告白したことが、なぜか陸上部全体に広まっていた。
誰かが見ていたのかもしれないし、本人が言ったのかもしれない。
「広田先輩かっこいいのに、なんで立野振ったの?」
短距離の早田が、個人練習前のストレッチのときに言ってきた。その言葉には興味より、責める響きがあった。
あたしは嫌な気分になった。
「じゃあ、早田はかっこよければ誰でもいいの?」
あたしの言葉に、早田は面食らったように顔を赤くした。
一気に場の空気が重くなった。
青木も複雑な顔で黙りこくっている。
あ~あ、失敗。青木にも、嫌なところ見られちゃったな。
陸上部では部活という共通点があるおかげで教室よりかは浮いてなかったのに。やっぱりあたしはどこかおかしいんだ。
なんであたし、広田先輩に告白なんてされたんだろ。
***
「立野ってさ、同学年女子にいじめられてんの? 大丈夫?」
西月先輩がハイジャンの練習のときに言ってきた。あっけらかんと訊いてくるのが西月先輩らしい。
「いじめられてはいません」
あたしは事実を述べる。
「ならいいんだけどさ。立野、一年の女子とあまりつるんでるの見ないし、特に今日は空気悪かったからさ。気になって」
西月先輩からの心配は少しだけ嬉しく思えた。
「あー、広田先輩のことでちょっと言われただけです」
「なるほど。立野、広田から告白されたんだってね。広田、悪くないと思うけど? なに? 立野、好きな人でもいるの?」
西月先輩の口から言われて、あたしはドキッとした。
「い、いません!」
声が裏返った。なんでだろう。広田先輩から言われたときは動揺もしなかったのに、なんだか頬が熱い。
あたしは嘘は言っていない。
青木は好きな人なんかじゃないもん。広田先輩の、あたしに対してのような軽い気持ちとは違うんだから。
あたしは、西月先輩からも青木からも目を逸らすようにして俯いた。
「ふーん? 赤くなっちゃって。まだ子供だねえ、立野は」
西月先輩に悪気は全くない。でもこのときはカツンときた。
まだ中学一年だよ? 子供で何が悪いの?
みんなみたいに急ぎ足で大人のふりすることがいいとは思わない。逆におかしいよ。
あたしは冷静になろうと息を吐いた。
「じゃあ、そういう西月先輩はどうなんですか?」
お返しとばかりに訊き返す。部活馬鹿の西月先輩だ。きっとそんな対象いないはず。
「え? 言ってなかったっけ? あたし、濱崎と付き合ってるよ」
「え?!」
あたしと同じように、青木も驚いたように西月先輩のほうを見た。
すらっと背が高くてボブの似合う美人の西月先輩。綺麗なのに女女してない性格が好ましくて、あたしは西月先輩には心を許していた。その西月先輩が長距離の濱崎先輩と付き合ってるなんてあたしは全く知らなかった。
濱崎先輩のことはよく知らないけれど、ふんわりと柔らかな空気を纏った男性だった気がする。二人が一緒にいるところが、全く想像できない。
「西月先輩って、濱崎先輩が好きなんですか?!」
「好きじゃなかったら付き合わないでしょ」
怪訝そうな顔で西月先輩に言われた。
あたしは青天の霹靂という感じで、その日珍しくハイジャンに身が入らなかった。
あの西月先輩でさえ、好きな人がいる……。
恋愛とはほど遠い感じがしたのに。
「立野ってさ」
青木に帰り道、声をかけられて、
「なに?」
とぶっきらぼうにあたしは返した。
青木に、今日のようなあたしの中学校生活を見られるのは、すごく不本意な気がした。
「不器用なのかな」
「器用じゃないよ」
「そういう意味じゃなくて。立野は、もっと自分の考えてることを伝えた方がいいんじゃないか? ハイジャンしてるときの立野は、ほんと素直なのにな」
「伝える? 素直?」
「うん」
「よく、分からない。最近よく分からないことが多すぎて本当、嫌になる」
「そうかもな」
あたしと青木は、わかったようなわからないような感じで、その後、黙って家まで歩いた。