おばあちゃんはまだ眠っている。
あたしはこれ以上チャイムを鳴らさないように、ゆっくりと玄関に近づいた。
玄関から門まで距離がある。相手が周だったら帰ってほしいと言えばいい。
「一花…周静のお父さんに全部話したって本当?」
門のところにいたのは傘を差さずに、雨を受け止めている友梨だった。
タオルを持っていくべきか悩んだけど、友梨がその場で泣き崩れてしまったので、慌てて傘を掴んで近づいた。
「…濡れるよ、立ち上がって」
「なんで…? なんで言ったの? いじめてたのは私でしょ、周静は関係ないじゃない」
「あたしは周にいじめられたとは言ってない…」
「じゃあ、なんで周静は学校に来ないの!? 私が家に行っても全然出てきてくれない! 一花じゃないと周静は出てきてくれないのよ!」
「きっといまだけだよ」
友梨の頭上に傘を差しながら、あたしは雨の音に耳を傾ける。友梨の泣きじゃくる声を聞いていたくなかった。
「お願い、一度でいいから話してあげてよ…」
「…でも」
周のお父さんが会わないようにしてくれているのに、それを裏切るような真似はしたくなかった。
「もう一花のこといじめないし、野球部に所属しなくていいから…。お願い、周静がこのまま学校に来なかったら、転校しちゃうかもしれないんだよ」
意地でもその場から動かなさそうな友梨を見て、あたしも観念するしかなかった。
「わかったよ…」