あたしにお父さんがいたなら。いまでも生きていてくれたら。悪いことをする子どもに怒鳴ってくれたんだろうか。
 あたしが泣き腫らした顔で帰るとすぐに気付いてくれたり、お母さんがあたしを置いて出て行くことはなかったんだろうか。

 夢の中でお父さんに会えた。

 お父さんはいつも興味ありませんって顔でテレビを見るような人だった。
 それほど背が高いわけでもなく、筋肉ががっしりとついてるひとでもなかったけど。

 お母さんが「傍にいると安心する」と表現するのがしっくりくるようなひとだった。

 幼稚園の頃はそんなに出張は多くなくて、ほとんど眠りの世界に片足を突っ込んでるあたしの頭を不器用に撫でてくれた。
 おぼろげな記憶だけど、お父さんの手はおばあちゃんや周と一緒でいつも冷たかった。

 でも、あたしを見つめる瞳は温かくってちぐはぐな記憶が残っている。

 新しいお父さんなんていらない。あたしのお父さんはたったひとりだけ。
 だからこそ、周のお父さんを代わりにしてしまったことが泣きたくなるほどに申し訳なかった。