逃げるように門を開けて、速足で玄関に向かう。
ひゅーひゅーと掠れた息が胸の隙間から逃げ出すたびに、あたしの中からいろんなものが零れてしまいそうだった。
汗を拭いながら玄関を開けると、見慣れない靴を見つけて言葉を失う。しかもいつもならまだ帰っていないお母さんの靴まであった。
―本当に周のお父さんが来てるんだ…。
玄関の開く音に気付いたおばあちゃんが、壁に手を当てながら現れた。
「お、おばあちゃん寝てないと…」
「…一花ちゃん、ごめんなさい。私何も知らなくて」
「なんのこと…」
居間の襖が開いて周のお父さんが顔を見せた。いつもの警察の制服を身につけた彼は、厳しい表情であたしを見下ろす。
「理花も知らなかったそうだが、ずいぶんと隠し事が上手くなったな」
「……隠し事?」
「いじめられていたんだろう。俺の息子と満星家の娘に」
息を呑んで後ろに引き下がろうとしたけど、おばあちゃんが背後で泣いていたのを思い出して踏みとどまった。
居間ではお母さんが顔をうつむかせている。あたしはどこにも逃げられないことを悟った。