「あ…、初めて塩尾瀬と帰った日のことかな」

 サッカーボールを持った男のひとを思い出した。
 塩尾瀬が裏庭のほうの門で待ってる、と教えられてあたしは嘘だと思っていたけど、本当に彼はいた。

「……うち、ずっと謝りたかった。友梨乃や周静に振り回されてる一花を見てたけど、嫌そうには見えなかったからほっといてもいいかなって思ってた。でも実際は違ったんでしょ。ふたりに言いたいことを言えなくて、野球部でひどい目に遭っててさ」

 塩尾瀬が道具を片づけたり葉を確認してる姿を見ると、ざわめく心は落ち着ける場所を見つけたみたいに休むことができる。

「…うちだってそう。思ってもない言葉を言って、友梨乃を否定できなかった。傷つく言葉をたくさん言った。本当にごめん」
「それ、教室で言うべきじゃない?」

 黙り込んでいた塩尾瀬が呟くと、一河さんは唇を噛みしめた。

「教室に戻ったらまた浅咲にひどいこと言うんだろ。でも、ここでは謝ってすっきりしようって落胆?」
「そんなんじゃない! うちは決めたの。いじめられてるひとを見て見ぬふりをしないって…」