一花、と一河さんが呼んだことに目頭が熱くなった。
「ほら、浅咲ハンカチ買ってきたからあげる」
「え、一花何で泣くのよ」
慣れきったようにハンカチを差し出した塩尾瀬にお礼を言って受け取る。
「…だって、また話してくれるとは夢にも思わなくて」
ハンカチに涙を吸わせると、あたしは隣に塩尾瀬がいることを確認してから言葉を続けた。
「雑貨屋、行ったよ。またおじいちゃんに写真あげに行ったの」
「そう…」
ハンカチを見下ろすと、隅っこに花の刺繍が施されている。綺麗な赤いバラに目を奪われていると、一河さんがまた息を吸った。
「…サッカー部の大利ってわかる? 別のクラスなんだけど、うちの彼氏。中学生のときに付き合ってるって教えたじゃん」
「ごめん、覚えてないかも…」
「あんた周静たちに記憶のコントロールでもされてんの?」
真顔で詰め寄ってきた一河さんに後ずさると、彼女は気まずそうに顔を逸らした。
「その大利が、塩尾瀬から一花を裏庭に呼ぶように声をかけられたらしくって。その時は嘘だと思ったんだけど」