いままでこんなに質問されたことはないし、あたしの話を相槌で済ませるだけだったのに。
「……大丈夫、です。いじめられてません」
「ならいいが、夜道は出歩くなよ。夏休みが近づくと隣町から来た不良がバイクで駆け回るようになるからな」
「はい」
どこか遠くを見つめたあとに、大きな手のひらが一度だけあたしの頭を撫でた。
―何で…周のお父さんのこと、怖いなんて思っちゃったんだろう…。
去っていく背中を見送りながら玄関に戻ると、塩尾瀬の傘が目に留まった。
塩尾瀬の熱を持った声が、また体中のあちこちに響いて、その場でじたばたしたくなる。
小学生のときみたいに、抑えられない感情がせり上がってきそうだった。
―塩尾瀬に触れられて喜ぶなんて、あたしどうしちゃったんだろう。
玄関で顔の熱を冷ますころにはタクシーが到着していた。