おばあちゃんの家に帰ると、塩尾瀬の傘を見つけてまた熱がぶり返す。胸ポケットに触れると固いプラスチックの感触がした。
靴ひもをほどいてさっさと洗面所に向かうと、情けない顔をした姿が鏡に映った。
―別に…塩尾瀬のことが好きっていうのは友達って意味で…。塩尾瀬もそう思ったから「ありがとう」って言ったんだし…なんで残念って思ってるんだろう?
「一花ちゃん、おかえりなさい」
突然聞こえた声に肩が跳ね上がった。
「おばあちゃん…体調は?」
あたしが帰っていることに気付いたおばあちゃんが、洗面所までよろよろと歩いてきた。
「平気よ。それより悪いんだけどね、いまからおばあちゃん検査しに病院に行ってくるからお留守番頼めるかしら」
「付き添わなくて大丈夫?」
「ええ」
居間でタクシーを待っていると、チャイムが鳴り響いた。続けてベルのような甲高い音が響く。周のお父さんが乗ってる自転車のベルの音にそっくりだ。
「十静さんだと思うわ。貴方の様子を見に来てくれたんだと思う」