自転車を押しながら坂道を上っていく塩尾瀬の隣を歩きながら、赤く熟された空を見上げた。

「よかったね。おじいちゃんと仲良しになれて」
「ああ、いい店だ」
「ロボット好きなの?」
「…子どものころにな。父さんが娯楽に厳しくて買えなかったんだ」

 おばあちゃんの家までもうすぐだ。
 あのカーブミラーを通り過ぎたらすぐに見えてくるから。隣を歩く塩尾瀬とのお別れもどんどん近づいてる。

「フィルムカメラで撮るときは俺がいるときにして」
「いいけど…、写真は現像しないとわからないよ?」
「撮るときのわくわく感を共有したいんだ」

 暑さのせいで塩尾瀬はしっとりしている。それでも袖を捲らないなんて、よほど理由があるんだろう。

「そんなに気になるなら話すぜ」

 袖を見つめていたのがばれたのか、あたしが何か言う前に塩尾瀬が引っ張り上げた。
 さらされた白い肌に、青い痣が浮かんでいるのがわかって言葉を失った。

「ろくでもねー父親だけど、死んでほしくないから一緒に住んでる。こういうことになるってわかっててもな」

 すぐに袖を下ろした塩尾瀬がまた自転車を押して歩き始めた。
 いつの間に立ち止まったのかもわからないほど、あたしはほっそりとした腕に意識を奪われたままだった。