雑貨屋は駅の近くにあるので、きょうは公衆電話が設置されている門に向かった。
夏の試合が近付く中、野球部のひとはいつも通り校庭を走っているけどどこか活気が薄れていた。
「いまは雨降ってないから暑いな。コンビニでアイス食いてー」
自転車を押しながら塩尾瀬が呟く。
あたしより背が高いぶん太陽との距離も縮まるし、何より長袖を着ているから何倍も暑そうに見える。
「反対方向にしかないんだよね…、あ。途中で駄菓子屋あるよ」
「さすが田舎」
野球部の後輩の子が、その駄菓子屋を経営してるおばあさんのお孫さんだったけど、野球部と関わっていないいまなら行っても構わないだろう。
日陰になりそうな道を選びながら、塩尾瀬の横顔を時々見上げた。
「写真撮るようになったのはいつ?」
「確か…、こっちに引っ越してきた十歳のときだと思う。おばあちゃんに使い捨てのフィルムカメラを買ってもらったのがきっかけかな」
塩尾瀬が興味を持ってくれたことが嬉しい。あたしも勇気を振り絞って質問してみる。
「塩尾瀬は、バイトで一番大変だったのは?」
「運送系かな。力仕事は大変だし、短期のバイトはなかなかに忙しいぜ」
「すごいなぁ、あたしも働いてみようかな」
言ってみて不安になった。飲食店とか良さそうだけど、メニューを全部覚えなきゃいけない。
勉強で手一杯なのに、メニューまで頭に入るだろうか。