塩尾瀬と過ごすようになってから、学校までの道中に咲く花を見るようになったある日。
 教室では夏休みの話題が上がるようになり、その前に控える期末テストは誰も触れようとしない。
 お昼休みにパンを食べながら花の様子を見ていると、塩尾瀬があたしの名前を呼んだ。
 それだけで心臓がばくばくと高鳴ってしまう。

「夏休みの予定ってどうなってる?」
「いつもはおばあちゃんの畑を手伝うくらいかな。毎年小松菜とか青梗菜を植えるの」

 毎年青々とした葉っぱが畑一面に見えるまで、ちょっとわくわくしながら見守る。
 他にもいろいろ収穫したりするけど、あたしに出来ることは少ない。近所のひとから勉強をせっつかれるのも疲れるし、進路について根掘り葉掘り聞かれるのもうんざりだった。

―今年は無理だろうな…、おばあちゃんはもう立つのも辛そうだし…。

「あ、あと雑貨屋に行ってた」
「雑貨屋?」
「うん、もともとはカメラを取り扱う店だったけど、五年くらい前に雑貨屋に変わったの。いつも撮った写真をあげに行ってたけど、今年に入ってからは一度も行ってないんだ」

 一河さんのおじいちゃんが営む雑貨屋はとても思い出深い。
 カメラを取り扱っていたときは使い捨てのフィルムカメラをよく買いに行ってた。
 あたしが撮った写真を見たおじいちゃんがお店に飾りたいと言ってくれたから、写真を撮るたびに渡しに行くようになった。