「一花、お母さんと東京に住まない?」
それは、この町から離れるという意味が含まれていた。
お母さんが言葉を止めてしまうと、耳が痛くなるような静寂が訪れる。
とっさにうつむくと、お母さんに叱られないように目を擦ろうとした。
「…一花、目が腫れちゃうわ」
ティッシュを差し出すお母さんと塩尾瀬が重なる。
金の光が、目の前を羽ばたいて遠のいていくような錯覚を覚えた。
「あたし…この町にいたい……」
喉奥に詰まっていた本音が零れ落ちると、お母さんは困ったように目を伏せた。
「そうよね…」
もうこの話は終わりにしたくて、あたしはさっさと自室に戻ると布団にもぐりこんだ。
―この町から離れたらもういじめられることはないのに…。
周と離れることが寂しかったんじゃない。
金に光り輝く彼から離れがたくて…、お母さんを困らせるとわかっていても、本音を選び取ってしまった。