おばあちゃんが寝静まったあと、珍しくお酒を飲まずに麦茶を汲んだお母さんに呼び止められた。
居間はおばあちゃんが眠っているから、お母さんの部屋である客間で向かい合う。
「…おばあちゃん、ずいぶんと元気そうに見えるけど、先生からは入院を勧められてるの」
「え…、入院って…」
「癌がずいぶん進行してるみたいで、手術しても、また再発する可能性が高いし…。もう高齢者で手術する体力もないから、このまま入院させて様子を見た方がいいって」
おばあちゃんの体に棲みつく、悪魔みたいな存在。
ずっと前からおばあちゃんの体をむしばんでいたことは知ってたけど、どんどんひどくなっているなんて知らなかった。
「…一花のために、ここに戻ってきたの。ひとりにさせたくないからって」
あたしは何度もおばあちゃんに泣いて縋った。
ひとりになりたくないって、寂しいから傍にいてほしい…って。
「お母さんもずっと、一花が寂しがってることをわかってた。でもどう接したらいいかわかんなくて」
お風呂から出たばかりのお母さんは赤い髪を乾かしていなくて、どこか疲れ切ってるように見える。