十歳のときからふたりがいてくれた。
そのおかげであたしはひとりぼっちにならなかった。
「浅咲、聞かなくていいぜ」
肩に触れた塩尾瀬の熱が、あたしの弱まった心を温めようとしてくれているみたいだ。
「お前が一緒にいたいならそうすればいいけど、辛いなら離れたらいい」
クラスのひとがこっちを見てる。あたしと塩尾瀬の関係を勘ぐってる。
でも…あたしは塩尾瀬の言葉に頷いて目を逸らした。
「あたしは、塩尾瀬と園芸部にいたいの」
はっきりと自分の気持ちを伝えると、周が椅子を蹴っ飛ばして立ち上がった。
大きな音に、とっさに頭を押さえた。
「一花、いい加減にしろよ。お前は何にも出来ないんだから俺の言った通りにしとけばいい」
「こんなに周静が心配してるんだから、野球部に戻ってきてよ。お願い」
どうして友梨は懇願しているような言い方なんだろう。あたしのことが嫌いなら、野球部からいなくなって清々するはずなのに…。
ふたりが距離を縮めて来る前に孝橋先生が教室に入ってきた。
慌てて席に着くクラスメイトを見て、周も舌打ちをして自分の席に戻る。
「浅咲、昼休みにまた裏庭な」
傍にいた塩尾瀬が耳打ちすると、そのまま席に向かった。
あたしも震えながら自分の席に向かうと、塩尾瀬を横目で見た。
塩尾瀬はいつも通り、平然とした顔でしっかりと前を向いていた。
その姿に早鐘みたいに鳴り響いていた心臓が落ち着いていく。
窓の外で雨が降らなくなったように、あたしの心も光が差し込んでいった。