居間の襖が全開なのはいつものことで、そこから近所に住むひとがおばあちゃんの名前を呼びながら顔を見せるのも毎朝見る光景だ。
おばあちゃんの畑を手伝う林形さんは、おばあちゃんより三歳年上の男のひとだ。
季節関係なく麦わら帽子を被っていて、声がいつも大きく体を動かして喋るので、元気いっぱいなひとだとわかる。
「一花ちゃん、おはよう。髪はねとるよ。身だしなみには気を付けんとね」
うん、と頷いて洗面所に向かう。後ろから「挨拶もできんのか」と呆れた声が追いかけてきた。
鏡に映る自分はこの世で一番可愛くない姿に見える。
望んでいない日焼けが目立っているし、お手入れの仕方を知らないからガサガサだ。
冬はいつも唇が裂けるのも可愛くない証拠だ。いまは梅雨の時期だからかさついているだけで済んでいるけど。
嫌い、と鏡に向かって呟いた。
蛇口から溢れる水に手を突っ込むと、井戸から流れ込んできた冷たい水があたしのくすんだ手に染み込んでいった。