「花の様子見る感じ、七月に入ったら植え替えできそうだな」
「植え替えって大変?」
「いや? 植木鉢の花を花壇に移すだけだぜ」

 その説明を聞きながら、あたしはバイト、という選択肢に気持ちが引っ張られたままだった。

 結局カメラを構えてもシャッターを切ることができなかった。
 手が震えてしまって、レンズを覗くことが恐ろしく思える。
 そんなあたしを見ても塩尾瀬は怒らないし、時々不器用に背中を擦ってくれた。

 教室に行くと、あたしの席に周が座っていた。友梨はこちらを見て顔をしかめる。

「野球部やめんのかよ」
「朝も勝手に行くなんて聞いてないよ」

 ふたりはあたしが口を開く前に、どんどん言葉を投げつけてきた。
 背後にはまだ、塩尾瀬がいるのに。

「一花、お前は俺と友梨乃の傍にいたいんだろ。お前の居場所は俺たちの傍しかないはずだ」
「ひとりになりたくないって言ってたじゃない」