梅雨の時期に、太陽が遠くの空にぼんやりと浮かび上がるのを見るのは初めてかもしれない。
目覚まし時計で何とか起きることができたけど、ゆっくりする時間なんてなかった。
「塩尾瀬、おはよ」
「ん、まあ三分遅刻なら許すぜ」
「ご、ごめん。カメラ持ってきたよ」
あたしがデジタルカメラを見せると、塩尾瀬は「触ってもいい?」と聞くので手渡した。
「本当は本格的なカメラが欲しいんだけど、お金なくて」
「バイトしてねーの?」
「…バイト?」
そんな言葉が出てくるとは思わなくて、思わず聞き返していた。
「前の学校ではバイトしてるヤツ多かったぜ。俺も浅咲が隣町のこと教えてくれた日にすぐ探しに行ってバイト見つけてきた。向こうは色々あっていいな」
「隣町って…遠くないの?」
「いや? 自転車で行けばすぐだから」
高校生になってからは自転車を使わずに歩くようになった。学校が近くだったこともあるけど、自転車にいたずらされることが多かったから。