塩尾瀬からいろんな花についての知識を聞いている間に、行き止まりにカーブミラーがある道に出ていた。

「あしたはメモ帳もってこい。いろいろ教えるから」
「…わかった。それと退部届も出さないとね」

 退部届を貰いに行くのは早めのほうがいい。友梨に何か言われたら「園芸部に所属している」と突っぱねればいいのだ。

―でもできるの? いままで友梨の顔色を窺ってたあたしに…。弱虫のあたしに…。

「退部届貰いに行くのついていくから」
「えっ」

 あたしが喉奥でわだかまっていた言葉を引き抜いた塩尾瀬に、思わず飛び跳ねてしまいそうになった。

「この学校で高校生活を楽しめよ。一生に一度なんだぜ。どんな結果だろうとお前が立ち向かって闘ったなら、それは褒められるべきことなんだ」

 うつむくとアスファルトにシミがぽつぽつと増えていった。
 目を擦ろうとして「腫れたら痛いぜ」と言われたので、慌てて手を離した。塩尾瀬は笑いながらティッシュをくれたので、それで拭き取る。

「またあしたな」
「うん、ばいばい」

 塩尾瀬の言葉が、いつまでもあたしの心に温かな状態で留まっていた。