じょうろの水を捨て、片づけを終えると塩尾瀬が自転車置き場に行きたいと言ったのでついていった。
「自転車通学だったんだね」
「そ、きのうは雨降ってたから乗ってこなかっただけ」
「今朝も雨降ってなかった?」
「きょうくらいの小雨なら平気」
裏庭がある門のところまで戻り、自転車を押す塩尾瀬の隣を歩く。
まだ日が昇っているのに、明るいうちに帰れるのは久しぶりだ。
「あしたから朝にも水やりするから。最低でも七時までには学校に来てほしいんだけど」
「え、なんで?」
「日中は水がすぐぬるくなるし、花の状態がどうなるのかわかんねーから」
「そう…あたし早起き苦手なんだけど…」
「花が地面に横たわって死んでいくのを見たきゃ、寝坊でもなんでもしろよ」
「言い方に悪意がない?」
むっとしながら言うと、塩尾瀬は肩を竦めた。背が高い塩尾瀬を見上げるのも、距離が縮まっていくのもなぜか嫌じゃない。
「百日草の葉が五枚くらいになったら植え替えする。そのときに花壇に移すんだ」
「へえ…いろんな作業があるんだね。なんでそんなに詳しいの?」
「俺の母さんが、元々花屋を経営してたんだ」