「また浅咲の撮った写真が見たいな」

 裏庭に戻ると、塩尾瀬は様子を見てちょっとずつ水を与えた。

「…写真撮ったらどこかに飾るの?」
「花の写真を応募するコンテストがあってな。カメラ持ってないし、周りに手伝ってくれるようなひともいなかったから諦めてたんだけどさ。浅咲の写真見たら、絶対撮ってほしいって思って」
「いつまで?」
「七月の終わりまでだったと思う」

 もう六月が終わってしまうから一カ月もない。いくら入賞したとはいえ、塩尾瀬の期待に応えられるような写真を撮る自信がなかった。

「あたし、本当に何もできないんだよ…」
「俺は浅咲の写真が好きだと思ったし、写真をくれたときはすげー感動した。気遣いできるヤツなんて少なくとも俺の周りにはいなかったし」

 そう、と呟きながら、塩尾瀬が葉の状態を確認しているのを横目に、熱くなった目頭を擦った。
 胸ポケットに仕舞っていた押し花を取り出して優しく触れる。

「…撮ってみる。あたし、園芸部に入る」

 勇気を振り絞って言ってみると、塩尾瀬が年相応の満面の笑みを浮かべた。
 歯を見せて笑うので、つられてあたしもぎこちなく笑う。

「ありがとう、浅咲」

 お礼を言うべきなのは、あたしのほうだと思った。